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第六章・10

 不思議だとは思っていた。  地区で一番偏差値は高いとはいえ、伊織さまほどの学力と財力のある人が僕と同じ学校だなんて。 「自分勝手に決めて実行したものだから、脳が溶けるほど叱られたよ」  私はもうすぐ、卒業する。  そう言って、伊織は少しきつく駿の先端に指先を入れた。 「ん、あ……ッ」  そうだった。  伊織さまは、いつまでも僕の傍にいてくれるわけじゃないんだ。  かすかな痛みと心の痛みで、涙が零れた。 「大学をどうするか。どうしようか、駿」

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