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第八章・金曜日のバレンタイン
立春は過ぎたとはいえ、本格的な冬の気候はまだまだ続いていた。
だが、伊織の頭は朝から春を迎えている。
2月14日。
「バレンタインデーだ!」
伊織は、普段より早起きをした。
「そして、金曜日だ!」
今回は、姑息な手段を用いなくとも、堂々と駿を傍に置いておけるのだ。
鼻歌を歌いながら、朝食の席に着く。
そこにはすでに、駿をスタンバイさせていた。
「伊織さま、何も朝ごはんまでご一緒しなくても」
「何を言う。一日は24時間しかないんだぞ? すでに6時間も過ぎている。残り4分の3しかないのだ」
柔らかいパンをちぎりながら、駿は微笑んだ。
伊織さまの、こういう無邪気な自分勝手さ、強引さが、すでに大好き。
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