159 / 223

第八章・金曜日のバレンタイン

 立春は過ぎたとはいえ、本格的な冬の気候はまだまだ続いていた。  だが、伊織の頭は朝から春を迎えている。  2月14日。 「バレンタインデーだ!」  伊織は、普段より早起きをした。 「そして、金曜日だ!」  今回は、姑息な手段を用いなくとも、堂々と駿を傍に置いておけるのだ。  鼻歌を歌いながら、朝食の席に着く。  そこにはすでに、駿をスタンバイさせていた。 「伊織さま、何も朝ごはんまでご一緒しなくても」 「何を言う。一日は24時間しかないんだぞ? すでに6時間も過ぎている。残り4分の3しかないのだ」  柔らかいパンをちぎりながら、駿は微笑んだ。  伊織さまの、こういう無邪気な自分勝手さ、強引さが、すでに大好き。

ともだちにシェアしよう!