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第八章・4
伊織は、気が遠くなりそうだった。
(こッ、これが『萌える』ということか!)
「……ありがとう、駿」
ようやく、その一言だけ絞り出した伊織は、大切にお守りを胸ポケットにしまった。
「私からの贈り物は、学校が終わってから渡すことにするよ」
「ありがとうございます、伊織さま」
後は身支度を整え、二人で仲良く車に乗り込んだ。
「伊織さまはきっと、たくさんチョコレートを貰うんでしょうね」
「それほどでもない。だが、校内一とは言えよう」
駿はこの時、伊織のバレンタインデーがどんなに凄まじいものか知らずにいた。
にこにこと伊織に寄り添い、鼻歌まじりに登校した。
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