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第九章・2
「お二方、もう少し笑ってください」
椅子に掛けた伊織と、その傍らに立った駿は、顔を見合わせるとにっこり笑った。
「いいですね、その笑顔! はい! もう少し、寄ってください。はい、いいですよ~!」
何度も何枚も、写真を撮ってもらった。
「夜までには、仕上がるそうだ」
デジタルではなく、フィルムで撮った写真。
伊織は、フィルムの持つ温かみが好きだった。
「解像度がデジタルほど高くない分、クッキリとはしない。だが、そこに安らぎを感じるんだ」
何でも白黒はっきりつけないと気が済まない性分の伊織が、そんなことを言う。
まだまだ謎を秘めた彼の魅力に、駿はいまさらながらときめいた。
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