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第九章・3
写真は、二つ折りのハードカバーに収められてやって来た。
「まるで、見合い写真だ」
「伊織さま、お見合いした事あるんですか!?」
ある、と伊織は当たり前のように言った。
「小学生の頃からかな。知らない女の子や男の子が、時々屋敷に現れた」
会って一緒にお茶を飲み、会話をし、食事を摂る。
その時は漠然と、結婚相手はこうやって決まるんだな、と思っていたが。
「でも、もうしない。見合いは、断るよ」
なぜですか、とは聞かない駿。
その代わり、顔を赤くして下を向いた。
「いつまでも、その初々しさは変わらないな。私が見合いを断る理由を、訊かないのかい?」
照れて照れて、駿は気が遠くなりそうだった。
そんな駿に、伊織は意地悪く問いかける。
「駿、この写真の男をどう思う? 君にお似合いだと、私は思うのだが」
二人で撮った写真は、そのまま自然と婚約写真になった。
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