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第九章・10

 時刻は、10時を少し回った頃だ。 「バレンタインデー、か。今夜、いったい何人の恋人たちがこうして愛を交わすんだろうね」  ベッドの上で、伊織は駿の唇を指でなぞった。 「お風呂でする人より、多いと思います」 「駿も、なかなか言うなぁ」  伊織は苦笑した。  何という、直球返答。  他の従者なら、こう言うだろう。 『その中の一人となれたことを、光栄に存じます』 「お風呂でするのは、嫌だったかな?」 「お、驚きました」  ほほう、と伊織は頷いた。 「嫌ではなかったのだな? 覚えておこう」 「もう! 伊織さま!」

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