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第十章・7
「お迎えの車が来ていますよ。行きましょう」
「うん。それより駿、何か欲しいものはないか?」
欲しいもの。
駿は、じっと伊織を見た。
卒業式と言えば、制服の第二ボタン。
駿は、ずっと伊織のそれが欲しかった。
お守りとして、残り2年間の高校生活を過ごすつもりだった。
だが、眼の前の男は、ボタンの一つもついていない制服を着ているのだ。
唇を噛む駿に、伊織はにやりと笑ってポケットからボタンを出した。
「欲しいかい? 第二ボタン」
「伊織さま!」
もう、意地悪はやめてください、と駿は手を伸ばした。
伊織さまは、最初から解ってたんだ。
そう思って、微笑んだ。
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