211 / 223

第十章・8

 だが伊織は、ボタンを握った手を、すいと高く上げた。 「あげてもいいが、条件がある」 「条件?」  僕が伊織さまの言うことをきかない、なんて無いのに。  今日に限って、妙なことを言い出す伊織だ。 「本日今から、駿は私を『伊織さん』と呼びたまえ」 「ええっ!?」  そんな!  伊織さん、だなんて、馴れ馴れしい! 「君はもう、従者ではない。『金曜日の少年』ではないんだ。私の大切な婚約者だ」  だから。  だから、優しく『伊織さん』と呼んでくれ。

ともだちにシェアしよう!