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第十章・8
だが伊織は、ボタンを握った手を、すいと高く上げた。
「あげてもいいが、条件がある」
「条件?」
僕が伊織さまの言うことをきかない、なんて無いのに。
今日に限って、妙なことを言い出す伊織だ。
「本日今から、駿は私を『伊織さん』と呼びたまえ」
「ええっ!?」
そんな!
伊織さん、だなんて、馴れ馴れしい!
「君はもう、従者ではない。『金曜日の少年』ではないんだ。私の大切な婚約者だ」
だから。
だから、優しく『伊織さん』と呼んでくれ。
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