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第十章・9

「伊織さま……」 「ほら、また!」 「あ、ごめんなさい」  じゃあ、と駿は息を吸った。 「制服の第二ボタンを、僕にください。伊織さん」  幸せそうな顔だ。  駿、私はいつでもいつまでも、君のそういう顔を見続けていたいよ。 「ありがとう、駿」  伊織の言葉に、駿の胸はいっぱいに満たされた。 「伊織さま、いえ、伊織さん……」  ボタンを二人の手のひらで包み、キスを交わした。  柔らかな春の日差しが、いっぱいに二人を包む。

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