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第十章・12

 これから、本当の逆境は始まるのかもしれない。  車に乗り込みながら、伊織と駿は考えていた。  伊織の両親は、拍子抜けするほど簡単に二人の婚約を許してくれた。  そんな彼らに、伊織は歯噛みする。 「どうせ私が、心変わりすると思っているんだ。駿との関係を、真剣に考えていないのさ」  自分の本気を示すために、伊織は駿を天宮司邸に転居させた。  同じ屋根の下で過ごし、どれほど駿のことを愛しているかを見せるために。 「しかし、私の両親は留守ばかりだ。あまり効果は望めないな」 「僕は、伊織さんと一緒に暮らせることが、ただ嬉しいですけど」 「可愛いなぁ、駿は!」 「痛い! 痛いです、伊織さん!」  ぐりぐりと頭を頬に押し付けられ、駿は悲鳴をあげた。  しかし、これも嬉しい悲鳴だ。

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