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第2話
【壱】
「暁 、遅かったね。何かあった?」
時間ギリギリに教室内へと滑り込み、すぐに目に付いた友人の横に腰を下ろしたと同時に聞かれ、暁は唇を少し尖らせて癖のある髪を指で梳いた。
「アパート出たら、鳥のフンが降ってきた。ったく、今日はツイてないや」
「それは災難だったね。ホントだ……暁の髪、シャンプーの匂いがする」
ふいに髪の毛を指で掬われ、涼しげな笑みを向けられれば……心臓がドキリと大きく脈打ち、顔へと熱が集中する。
「唯 、止めろよ」
「ん、何が?」
国外生活の長い彼には普通なのかもしれないが、男同士でこんな触れあいはおかしいだろうと暁が諭すと、分からない……といった様子で、唯人は首を傾けた。
「暁は、変なこと気にするね」
「気にしてるんじゃなくて……まあいいや。唯はそれで」
「良くわからないけど、誉め言葉だと思っていい?」
「いいよ。俺、唯のことマジで尊敬してるから」
「ありがとう。俺も暁が好きだよ」
サラリと言ってのける唯人に曖昧な笑みを返した暁は、始まっている講義を聞くため一度そこで会話を切る。
海外生活云々よりも、ただの天然だと思うのだけれど、だとしたら……本当に彼は罪作りだと暁は思った。
大学生活が始まって、まだほんの二ヶ月足らず。
初めて出来た友人は、色々な面で他の人より秀でている筈なのに、どういう訳か暁以外とあまり言葉を交わさない。
それを内心喜んでいる自分自身に気付きながらも、ポーカーフェイスを保てるように、暁は極力気をつけていた。
(それにしても、綺麗な顔してるよな)
講義に耳を傾けながら、チラリと唯人を盗み見る。
クォーターで中性的な雰囲気を持つ整った容姿と、細すぎず、筋肉の付いた引き締まっている身体のライン。いつも掛けている眼鏡も知的な彼にはよく似合っている。
身長も百六十五センチ無い暁よりも二十センチ近くも高く、密かに女子が『王子様』と呼んでいるのをここまで何度も耳にした。
それにひきかえ暁の容姿は地味な上に童顔で、髪の毛だけは真っ黒だけれど、それ以外は全体的に色素も薄く、多少筋肉は付いているものの、それでも標準よりも細いから、きっと貧相な印象だろう。
「暁、そこ違う」
「ん?」
「ここ、書いてあるのと違うよ」
「あ、ホントだ。ありがとう」
違うことを考えながら、ただ写していただけだったから、間違えて書いてしまっていたのに指摘されて気がついた。
小さく礼を告げながらも、珍しくもないやりとりに……本当になぜこんなに世話を焼いてくれるのか不思議に思う。
(自分はノート取ってないし)
この大学は国内では最高ランクの国立大で、暁自身、入学するのにかなりの時間勉強した。そのためだけに高校の三年間を費やしたと言っても過言ではない。
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