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第7話
『名字で呼ぶのはやめようか。そうだな……俺のことは唯 って呼んで。俺は暁 って呼ぶから』
『そんな……突然言われても』
『で、暁の質問は俺がゲイなのかってこと?』
『っ!』
二人掛けのソファーは二脚向い合わせに置かれているのに、なぜか並んで座った上、肩へと腕を回されている。
覗き込むように唯人に問われ、直接的なその物言いに暁が思わず頷くと……首を僅かに傾げた彼は、『どうかな』と呟いた。
『暁は……俺の飼ってた小鳥に似てる』
『え?』
突然、突拍子もなくそう告げられて、答える声が裏返る。
『ああ、ごめん、意味が分からないよね。最初学校で見掛けた時からそう思って気になってたから、今日駅で見かけた暁に声を掛けようと思ったんだけど、なかなかタイミングが……ね』
『そうか、それで……』
あんな場所に彼が居たのだと思えばようやく納得ができ、暁は小さく息を吐き出す。
『だから、俺はゲイじゃない』
はっきりとそう言葉にされれば、無意識の内に淡い期待を抱いてしまっていたのだろう、ツキリと胸が痛みを覚えた。
『あ、そうだ、あの人に金渡してたろ? 返すよ』
気恥ずかしくなった暁は、なるべくサラリと話題を変え、ジーンズの後ろポケットから財布を取り出そうとする。
いくら渡したか見えなかったが、軽率な暁の行動を……きっと目の前の優しげな彼は、見過せず声を掛けたのだろう。
(そう、それだけ)
最初から全て見ていたのだから、暁が男に金額を指で提示され、それについて行こうとしたのも知っていて……だから男に金を渡して穏便に場を収めてくれた。
『もしかして俺、余計な事した?』
『……いや、そんなことない。俺、小さい頃から男しか好きにならなくて、それがバレて、こっち出てくるまで、いじめっていうか、色々あって……だから、同じような人がいるの確かめたかったんだけど、ちょっと焦ってた。だから、止めてくれてよかった。ありがとう』
『そう、辛かったね。でもあれは俺が勝手にやったことだから、金は返さなくていい』
『いや、そんな訳には……』
肩を抱く手に力が籠り、優しい声音でそう告げられれば、鼓動は高まり泣きたくもなるが、表面にだけは絶対出さない。
初めて言葉を交わした相手に、性癖や過去を晒してしまった自分に自分で驚いていたが、現場を見られてしまった以上、仕方がないと言い聞かせた。
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