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第8話

『つまり、暁はあの男に身体を売るつもりだった。それを俺が買い取った。だから、俺は暁を好きにしていいって事だと思うんだけど』 『え? だ…だって』 『俺、おかしなこと言ってる?』 『おかしいって訳じゃ……ない、けど』  話の流れと彼の言葉の支離滅裂さに言葉が出ない。たった今……自分をゲイでは無いと言ったのに何をしたいというのだろう? 『俺は暁を気に入った。だから、友達になりたい』 『ああ……友達』  それなら金など貰わなくても、彼とだったらなれるだろう。また勘違いするところだったと暁は内心苦笑する。 『そう、友達。あと……』  暁の髪の毛を指で掬い取り、優美な笑みを浮かべた唯人は、耳へと口を近づけてきて、まるで内緒話のように『ゲームをしよう』と囁いた。 (まさか、それが……)  ゲームの意味まで聞くことができず、半ば雰囲気に飲まれるように頷いた暁に提示されたのは、信じられない内容で。 「暁、終わってるよ」 「え? あ……ああ、ごめん、ちょっとボーっとしてた」 「やっぱり昨日無理させすぎた?」 「いや、そうじゃなくて……あっ」  スルリと腰を掌で撫でられ上擦った声が上がってしまい、講義が終わり人もまばらになってるとはいえ、誰かに見られていやしないか暁は心配になってしまう。 「今日はバイトだっけ?」 「ああ、五時から入ってる」  腕から自然に逃れるために、立ち上がりながらそう答えると、暁は手早く鞄の中へとテキストなどをしまい込んだ。 「そっか、暁は偉いね」 「唯の家みたく金持ちじゃないから。それに、バイト結構楽しいし」  大したことじゃ無いのだけれど、誉められたのが嬉しくてつい口の辺りが綻んでしまう。  本屋のバイトはあまり人との関わりが無いから気に入っているし、時給はあまり高くはないが、本が好きだから気にならなかった。 (それに) 「楽しいって……バイト先に、気になる人でもできた?」 「そんなのいるわけ無いよ。まあ、話が合う人はいるけど」 「そうなんだ。良かったね」  綺麗な笑みでそう答えると、唯人も席から立ち上がる。そこから一緒に教室を出て、門までの距離を歩く間、暁は唯人に尋ねられるままバイト先の話をした。  暁は本来、あまり自分から話をするタイプじゃないが、唯人とならば無理をしないで自然に会話を楽しめる。 (俺の話なんて、面白くも無いだろうに)  これといって可笑しくもない暁の話を楽しそうに聞いてくれ、なおかつ上手に引き出す唯人を内心不思議に思いながらも、それでも彼が望むのならば出来るだけそれに応えたかった。

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