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第9話
「唯は、これからどうするの?」
「俺?」
「うん、どっか遊びに行ったりとかしないのかなって」
別れ際、思い切って暁が尋ねると、頭にフワリと掌が置かれポンポンと軽く叩かれる。
「んー、どうかな。まだ決めてない」
「そっか」
そう言われれば、それ以上は何も聞けなくなってしまい、暁は「またな」と一言告げると、手を軽く振って歩き出す。
背後から、「また明日。バイト頑張って」と唯人の声が聞こえてきたから、一旦止まって振り返ると……こちらを見つめる彼の表情に微かな違和感を覚えたけれど、気のせいだろうと思った暁は、再度手を振って背中を向けた。
(また、聞けなかった)
自分と遊ぶ時以外、唯人がどう過ごしているのか暁は知らない。今みたく、さり気なさを装いながら聞いてみた事はあるけれど、いつも唯人は曖昧にしかそれに答えてくれなかった。
友達だからといって全てを知ろうなどとは思わないけれど、唯人については謎が多くて、時折無性に不安になる。
(考え過ぎ……かもしれないけど)
高校までの長い期間、友達と呼べる存在がずっといなかった訳じゃないけど、田舎だったせいか大抵子供の頃から知っていて……わざわざ聞いたりしなくても、おおよその事は分かっていた。
だから今、どこまで彼に聞いても良いのか分からなくて、直ぐに言葉を止めてしまう。下手に踏み込んで、距離を置かれる事態だけは避けたかった。
「……って、ウジウジ考えてるのがダメなんだよな」
「え、なんか言った?」
「あ、いや、何でもないです」
後ろの列で品出しをしていた同僚に声を掛けられて……バイト中だったのを思い出し、暁は慌てて手を動かす。
「そうだ白鳥君、帰り時間ある? 良かったらちょっと話そうよ。木崎修一の絶版本が手に入ったんだ」
「本当ですか? 見たいです!」
「シー、声が大きいよ……じゃあ、後でね」
フワリと優しい笑みを浮かべ、仕事に戻る小柄な彼は、有名私立大の三年で名前は小泉 叶 多 という。小柄といっても暁とそんなに体格は変わらないのだが、どこか儚げなその雰囲気が、彼を一層華奢に見せていた。
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