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第10話
小泉とは、バックヤードで雑誌の返品処理のしかたを教わってから、少しずつ喋るようになり、同じ作家が好きと判明してからは……休憩中や帰りがけによく話をすようになった。
店長や同じバイトの子達に、「兄弟かと思った」などとよく言われるが、暁自身、そんなに似てると思わない。背格好が似ているからそんな風に言われるのだろう。
(って、今日はいつもの人、迎えにこないのかな?)
少なくとも暁と同じシフトの時、小泉にはバイトが終わる十一時半に必ず迎えがやってくる。
心配性なルームメイトだと照れたように紹介されたが、2人の姿は暁の目に……恋人同士のように映った。
(俺がゲイだから、そう見えるんだろうか?)
「白鳥君、どうしたの?」
「あっ、ちょっと考え事してて」
「よく違う世界に行ってるよね、白鳥君は」
「そんなことは……あるかもしれない」
「だよね。白鳥君って表情にはあんまり出ないけど、結構色々考えてそう」
クスクスと笑う小泉に、恥ずかしくて目を彷徨わせると、「最近ちょっと分かってきたんだ」と嬉しそうに告げてくる。
「今日はいつもの人、迎えに来ないんですか?」
「ああ、今日はちょっと用事があるみたい。家、近いから、迎えは要らないって言ってるんだけど」
途端に薄く色づく顔に、くすぐったさに似た感覚が暁の心を包み込んだ。
***
そして今、暁は小泉と個室タイプの居酒屋にいる。
「もし時間があるなら、夕飯でも食べながらゆっくり話そうよ」と、彼から誘いを受けた時には正直とても驚いたけれど、もっと話してみたかっただけに願いが叶って嬉しかった。
(変な意味とかじゃなくて、普通に、先輩として)
「白鳥君、またどっか行ってる?」
「いや、行ってないです。行きかけてたけど戻ってきたっていうか……」
「白鳥くんってやっぱり面白い。あ、好きなの頼んで、今日は僕が奢るから」
「そんな訳には」
「いいから、僕から誘ったんだし、これでも一応年上だしね」
柔らかく笑うその表情に、つられて暁まで笑顔になる。
「じゃあ遠慮なく」と、答えてメニューを開いた暁は、驚いたようにこちらを見ている小泉に首を少し傾げた。
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