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第11話

「どうしたんですか?」 「ううん、白鳥君がちゃんと笑ったの初めて見たから……ちょっと感動してた」 「なんですかそれ、俺だって笑うくらいしますよ」 「だよね。でもさ、ちょっと近づきづらい雰囲気だったから、嬉しくなった」 「俺は小泉さんとこんな風に話せるの、すごく嬉しいです」  彼の言葉に含みが無いから、暁もつられて思ったことをスルリと彼に告げてしまう。意識している唯人とは違い、まるで友達相手のように素の自分が出た感覚は……本当に久しぶりのことで、肩の力が一気に抜けた。 (不思議な人だ)  頼んだ料理が運ばれるまで絶版本を見せて貰い、それについて二人で語った。  小泉は、病名までは聞けなかったが、高校時代に長期療養で留年し、その時本を読むのが好きになったのだという話も聞けた。 「だから僕、本当は白鳥君の三個上なんだ」 「大して変わらないんじゃ……」 「まあ、そうなんだけど、少しは先輩面させて。白鳥君にとって、本は逃げ込む場所だったかもしれないけど、これからは、何かあったら僕に言って欲しいくらい、白鳥君が好きだよ」  酒は飲んでいない筈なのに、いつもとは違い饒舌な彼の顔が何だか赤い気がする。小泉との会話で暁は、その理由までは言えなかったが自分が苛めに遇っていたことと、本を読むのが好きだったから救われた……とだけ彼に話した。 (それにしても、好きとか)  友達同士の間では良く使わるのかもしれないけれど、言われ慣れない暁は胸元をギュッと押さえて高揚を留める。  それくらい……含みの見えない彼の言葉は、暁にとって嬉しい物だった。 「俺も小泉さんの事、好きですよ。だから、今日は沢山話しが出来て嬉しかったです。あ、そういえば、結構時間経っちゃいましたけど、一緒に暮らしてる人、心配しませんか?」  なるべく平静を装いながら、暁がサラリと話題を変えると、「あっ、そうだ。電話しないと」慌てたように答えた小泉が動き出す。 「ちょ、小泉さんっ」  すると突然彼の身体がフラリと揺れ、倒れそうになったものだから、暁は咄嗟に腕を伸ばした。 「大丈夫ですか?」 「なんか……世界が斜めになってる」  なんとか支えて彼に尋ねると、どう考えてもおかしな返事。 「それは、小泉さんが斜めになってるからです」 「そうなの? おかしいな。フワフワする」 「ちょっと横になってて下さい。電話借りますよ」  どうやら、もしかしなくてもいつの間にか酒を飲んでしまったらしい。動いたせいで一気に酔いが身体に回ってしまったのようだ。

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