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第19話

「分かった。唯に聞いてみるよ」  とりあえず笑顔を作って、当たり障りなく暁は答える。 「ホント? ありがとう。じゃあアドレス交換してもらってもいい?」 「え? ああ、いいよ」  この流れでは断れないから携帯電話を持ったところで、突如背後から伸びてきた手に両方の肩を掴まれた。 「うわっ」 「おはよ」 「……唯っ、びっくりさせんなよ」 「楽しそうだね。何してるの?」 「何って……メアドの交換だけど」 「そうそう、御園君も良かったら、今度一緒に飲みに行かない?」  丁度目当ての本人が来て、舞い上がっているのだろう。花が綻ぶような笑顔は、女性特有の可愛げがあって羨ましいと暁は思った。 (きっと、唯もこういうのが好きなんだろうな)  ふわふわと柔らかく、繊細で小さな女の子。 マイノリティーの自分でさえ、魅力的だと思うのだから、ノーマルな唯人が断る理由なんてどこにもない。 「ごめん。持病があって、俺、酒は飲めないんだ。あと、今日はちょっと急いでるから、コイツとのメアド交換は後にしてくれるかな」 「え?」 「暁、行くよ」 「ちょっ、唯、どうし……」 「いいから。今日の授業終わりだろ?」 「え? あ、唯、ちょっと待って」  暁の携帯と鞄を取り上げ、そのまま歩く唯人の姿に、状況はまるで飲み込めないが、慌てて暁は立ち上がった。突然の事に動けずにいる女性二人に頭を下げ、「ごめん、また今度」とだけ声を掛けてから暁は唯人を追いかける。 「唯っ」  こちらを振り向くこともせずに、先を歩く唯人の隣へ少し走ってどうにか追いつき、暁が横から声を掛けると、スピードは落とさないまま唯人が視線をこちらに落とした。 「授業……来なくて心配した。何かあった?」 「ああ、急用が入った。連絡できなくてごめん」  いつもとは少し違う気がするが、微笑む顔に安堵する。 「こんなに急いでどこ行くの?」 「暁と二人になれる所」 「え? だって、唯、用事があるって……」 「いいから黙って付いてきて」  急いでいると言っていたから、用事があるんじゃないかと思って聞いたのだが、返ってきたのは思いも寄らない言葉だった。  声音はいつもと変わらない。  違うのは纏う雰囲気だけなのだけど、唯人に黙っていろと言われれば、暁はそれに従うだけだ。

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