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第20話

 そこから――学校を出て少し歩き、カラオケボックスへと入るまで、一言も話すことなく暁は唯人に従った。 「びっくりした?」  フロントで部屋を案内され、彼に続いて中に入ると、ソファに座った唯人がようやく暁に話しかけてくる。 「うん、びっくりした。唯、なにか怒ってる?」  どうやら彼にもいつもと違う行動を取った自覚はちゃんとあるらしい。女の子への態度も含め、驚いた事を暁が伝えると、正面に座った唯人は困ったように微笑んだ。 「怒ってないよ。ただ、女に話しかけられて、嬉しそうな暁見てたらなんかムカついた」 「なんでだよ。彼女、俺じゃなくて唯と友達になりたいって……それに、俺、嬉しそうになんかしてないし」 「そうだったんだ。それにしても、俺がいない間にっていうの、好きじゃない。直接言ってくれたら、ちゃんと断るのに」 「断るなんて勿体ない。可愛い子だったじゃん」  こんな……心にも無い事を言って、唯人の気持ちを計ろうとする浅はかな自分が情けない。勿体ないと言いながらも、断るという唯人の言葉に、暁は実際安堵にも似た気持ちを心に抱いてしまった。  しかし、そう考えた次の瞬間、『ちゃんと断る』と冷たく響いた唯人の言葉が、自分自身に向けられたらと考え今度は血の気が引く。 「暁、何考えてる? 顔色がおかしい」 「なんでもない。唯はモテるから羨ましいって思っただけ」 「女にモテてても暁はしょうがないだろ」  伸ばされた指に頬を撫でられ、ピクリと体を震わせると、唯人の口端が綺麗に上がり、眼鏡越しに見える瞳が一瞬だけ細められた。 「それとも、女の子に興味ある?」 「いや、無い……けど」 「けど?」 「可愛いなって思った。俺も、男しか好きになれないなら、女に生まれた方が楽だったかもって」  元々……自分の性癖に気付いてからも、暁は女性になりたいなんて思ったことが一度もない。  これまで誰かに恋をしても、男としての自分の姿しか、想像したことがなかった。だけど、ここにきて、抱かれたいと思う相手が出来て初めて、自分が唯人の望むような女性だったらと考えた。

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