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第29話
(だって、この人は……綺麗で、優しい)
「昨日までスポーツドリンクだけでしたけど、今日は来る前にパンをちょっと食べてきました」
「そんなんじゃダメだよ。風邪は直りかけが一番大事なんだから。そうだ、僕たちこれからご飯だから、良かったら白鳥君も一緒に食べよう。それで、今日は家に泊まればいい。そんなにフラフラして、倒れでもしたら大変だ」
「倒れなんてしないですよ。俺なら大丈夫ですから、それに……」
本当は風邪では無いと言えずに暁は口ごもる。
現状、暁の他人との交流はほぼ唯人に限定されているから、こうして友達みたいに心配して貰えるのが、内心凄く嬉しかった。
「どうした?」
彼の隣へと立った須賀が、こちらに小さく会釈をしながら小泉へと声を掛ける。
「あ、悠哉君……白鳥君、調子悪くて、一人暮らしで心配だから、今日は家に泊まってって言ってるんだけど」
「ホントだ、顔色悪いな。こんなところで立ち話させたら余計悪くなる。とりあえず座れる場所に行こう。話はそれからだ」
「あ……でも、俺、大丈夫ですから」
自分を見る須賀の瞳が一瞬細められたように見え、図々しくも小泉の誘いに乗る方へと揺れた気持ちが、冷たい水を掛けられたように急激に冷めていく。
彼の恋人かれすれば、男を部屋に泊めるだなんて迷惑な話だろう。
「ちゃんとご飯、食べるんで……心配してくれて、ありがとうございました」
ちゃんと笑えているかどうかは正直微妙なところだろうが、それでも暁は彼らに向かってきちんと頭を下げ告げた。
須賀がこちらに向けた視線も、悪気があっての事じゃない……と、頭の中では理解できている。
「え……でも」
「白鳥君、今のはそういう意味じゃない。ちょっとそのチョーカーが気になっただけだから、もし嫌じゃなかったら、叶多の言うとおりにしてやってくれないか?」
「チョーカー?」
「ああ、そうだ」
自分が何に気を使ったのか見破った須賀の洞察力に、目を丸くして暁が答えると、小さく頷き返した彼は、「嫌な思いをさせて済まない」と、低い声音で告げてきた。
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