30 / 188

第30話

「話は後だ。とりあえず行こう」 「……はい」  怖い訳ではないのだが、有無を言わせぬその雰囲気に飲まれたように暁が頷くと、嬉しそうに微笑んだ小泉が「こっちだよ」と歩き出す。  それにつられて暁が彼らの方へと脚を進めた時、背後から伸びて来た掌に突然肩を掴まれた。 「っ!」  強い力に引き寄せられ、反射的に振り返った暁は、視界に入った姿に思わず動きを止めて息を詰める。 「お前、なぜここにいる」  同時に聞こえた須賀の声は、今までに無い凄みを帯び、人通りもまばらな路地へとやけに大きく響き渡った。 「なぜって……暁を迎えに来たんだけど」 「……唯」  自分の掠れてしまった声と、それに被さるように放たれたもう一つの細い声。  同じく彼の名前を呼んだ声が小泉の物だと分かり、暁の胸は妙な不安に包まれ大きく脈打った。 「久しぶり悠哉、それに叶多。驚かせたなら謝るよ。そこの路地で暁を待ってたんだけど、話し込んでるみたいだったから、ちょっと出づらくなっちゃって……ね」 「唯、いつ、日本に……帰ってきたの? それに、白鳥君とはどんな……」  唇に薄く笑みを湛えて飄々と答える唯人と、一瞬にして緊迫感に包まれてしまった二人の会話に、付いていけない暁はただ、黙っている事しかできない。 「今年の春帰って来て、こっちの大学に入り直したんだ。暁とはそこで知り合った。叶多は……良く喋るようになったみたいだね。話はいつも暁から聞いてる」 「お前、どういうつもりだ。何で今頃俺たちの前に姿を見せる」 「偶然だよ。暁から名前を聞いた時は驚いたけど……そんなに警戒しなくても、前みたいな事はしない。もう俺も、子供じゃないしね」  唯人が放ったその言葉に……須賀の後ろに立つ小泉の顔から血の気が引いていくのが、暗い中でも良く分かった。  街頭の淡い光の中、小さな体が震えている。 「白鳥君は、お前の……何なんだ?」 「暁は俺のモノだよ。だから、勝手に連れて行かないでくれるかな」 「……っ!」  声と同時にチョーカーを軽く後ろに引かれ、バランスを崩した暁を受け止めた唯人が小さく「痛かった?」と聞いてきた。

ともだちにシェアしよう!