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第33話

 *** 「どこに行くの?」 「ん? 秘密」  少し前を歩く背中に思い切って声をかけるが、曖昧な返事だけしか貰えず暁はため息を吐く。  二日前……アルバイト先の小泉と、その恋人と唯人の3人が、口論を始めたところで暁は突然意識を断った。多分、唯人に何かされたのだろうが、はっきりとまでは覚えていない。  次に目を覚ました時、小泉と須賀の家に寝かされていたのには凄く驚いたけれど、それから熱が下がるまでの間、結局世話になってしまった。 (二人とも……優しかった) 「着いたよ」 「え?」  考え事をしている内に、目的地へと着いたらしい。 「おいで」  気付けばそこは綺麗なマンションの入り口で、ドアのロックを解いた唯人が暁を手招いていた。  小泉達の住むマンションもかなり立派な物だったけれど、これが唯人の家だというなら全く引けを取っていない。 「ここって……唯の家?」 「ああ、暁は初めてだったね」 「やっぱ唯って金持ちなんだな」  思わず口から零れた感想に、唯人が喉で笑う音がした。  そのまま、エレベーターへと乗った暁は、彼の部屋が最上階であったことにまず驚き、室内に入った時にはその広さに驚いた。  全ての部屋を見た訳じゃないが、リビングだけでもかなり広い。しかも、メゾネットタイプらしく、廊下の途中に階段もあった。 「凄い景色だ。ご家族は……外出中?」 「一人暮らしだよ。通いのハウスキーパーはいるけど、ここに住んでいるのは俺だけだ」  大きな窓へと貼り付くように外の景色を眺めながら、疑問に思ったことを尋ねると、すぐ後ろから声がする。同時に頭の両側から、スッと腕が伸びてきて、窓と唯人の間に閉じ込められるような体勢になった。 「唯、どうし……」 「俺があげたチョーカー、どうしたの?」  背後から喉仏の辺りへ、ツッと冷たい指が這う。その声音は柔らかいけれど、背筋を冷たい物が走った。 「シャワー浴びる時外したまま忘れてた。ごめん」 「そっか」  本当は……理由はそれだけではないけれど、用意していた答えを告げると、唯人は短く返事をしてから、肩を掴んで暁の体を自分の方へと反転させる。 「暁、叶多から話……聞いた?」  向かい合った状態で、上から見下ろす唯人の瞳は、天候があまり良くないせいか深く澄んだ薄墨色で、真っ直ぐ視線を絡ませた暁は、吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥った。

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