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第38話

 ***  幼い頃から自分の容姿が他者を()き付ける事は知っている。それを利用することを、悪いなどと思った事も一度もない。  人間の価値はその内面で決まるとほざく(やから)もいるが、そんな形の無い曖昧なものはあてにならないと考えていた。  大体、内面なんて誰も大して変わらない。  それを取り繕う為の、器に違いがあるだけだ。  優しいふりをして微笑んだだけで、他人はたやすく心を赦す。いい人間だと思われる事は、実際かなり簡単だ。  一度好きになってしまえば、なかなか嫌いになどなれないのも唯人には良く分かっている。 「ちょっと、早過ぎたかな」  リビングのソファーに座り、煙草を取り出し火を着けながら、唯人は一人呟くと……軽く煙を吸い込みながら、先刻出てきたドアを見遣った。  音は全く漏れてこないが、媚薬をたっぷり塗り込まれた上、玩具に犯され続ける彼は、きっと底の無い快楽に溺れ悶え苦しみ続けているはずだ。  本当は、もう少しだけ普通の友達を演じてからと考えていたし、それはそれで面白かったが、予想以上に言いなりの暁がどう反応するのかを……早く見たくなってしまった。  つい先日、小泉叶多と久々に対面し、感情が昂っているのが大きな要因となっているのも、唯人自身自覚している。 「逃げるか、それとも……残るか」  選択肢を唇に乗せるけど、逃がすつもりは毛頭(もうとう)なかった。唯人が飽きる時が来るまで、暁は遊びの駒となる。 (まあ、最初はこんなもんか)  コーヒーカップをテーブルへ置き、半分ほど残った煙草を灰皿の上でもみ消すと、唯人はソファーから立ち上り、先程暁が脱いだ洋服を掴んでダストボックスへと棄てた。  彼を部屋へ置き去りにしてからに二十分しか経っていないが、中で苦しむ暁にとっては充分長い時間だろう。 (さて、どうしてやろうか)  口元に薄く笑みを浮かべ、扉まで歩み寄った唯人は、ドアノブへと指を掛け、それをゆっくり右へと捻る。  そして……少し開いた扉の中から暁の声が聞こえた刹那、快感にも似た強い感覚が唯人の背筋を突き抜けた。

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