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第42話

 ***  徐々に自分が自分の知らない何かに創り替えられている。そんな不安に押しつぶされてしまいそうになるけれど、暁はどうしても唯人の側から離れるのが嫌だった。 (きっと、何かある。それを……知りたい)  ノート上へと走らせていたペンを止め、暁は一人考えに(ふけ)る。唯人の事をもっと知りたいと暁が強く思ったのは、彼のマンションへ初めて行き、訳も分からず拘束をされ酷くなぶられてからだった。  それまでも、遊びと呼ばれる行為になると、いつもの彼とは別人のような行動を取る節はあったけれど、あの日から……暁の中で渦巻く違和感は日毎に大きくなる一方で――。 「暁、手が止まってる」 「ちょっと疲れた」  こうして普通に過ごせる時間は、出来る限りこれまで通りを心がける事にした。伸びをしながらそう答えると、笑みを浮かべた唯人は「俺も」と小さな声で返事をする。 「何か飲みに行く?」 「そうだね。ちょうど昼だし、ついでに飯も食べよう」 「うん、そうしよう」  立ち上がる唯人に頷きながら、暁も席を後にした。高校の時よりも長い夏休みが始まってから、もう数日が経っている。  一緒に課題をやらないか? と、提案したのは唯人の方だが、ゲームと呼ばれる行為以外で会える時間が増えたのが……暁は単純に嬉しかった。 「今日は何にする?」 「うーん、中華は?」 「いいよ」  課題をするのは大抵いつも大学の中の図書館だから、外へと出れば安く食べられる定食屋が沢山ある。中でも中華は暁の一番のお気に入りになっていて、少なくとも週に一度は必ず二人で通っていた。 「唯は、何か好きな食べ物ってないの?」 「特には……でも、ここのラーメンは美味しいから好きだよ」  なんだかんだで唯人はいつも暁に店を決めさせる。だから、彼が食べたい物があればとさりげなく聞いてみたけれど、やはり彼からは掴みどころの無い答えが返ってきた。 「なら良かった」  本当は、金銭的に恵まれた唯人を定食屋に誘うのにも結構な勇気がいたから、別々に食べて来ようと最初は言ってみたものの、不思議そうに「なんで?」と聞かれ、結局事情を説明すると、「馬鹿だな、暁は」と一蹴されて今の状態に落ち着いている。

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