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第44話

 含まれた意味は理解しているが、最初から……唯人が誘ってくれる間は、出来るだけそれに応えようと暁は心に決めている。 「終わる時間に迎えに行こうか?」 「大丈夫だよ。子供じゃないし、そんなに遠くないから一人で行ける」  バイト終わりに迎えに来れば、また小泉と鉢合わせになる可能性も高いだろうに、全く気にしていないようだ。  だから、その話題には触れないようにと考えながら答えれば、唇に笑みを浮かべた唯人は、「そう、分かった。じゃあ途中で誰かに誘われても、ついて行っちゃ駄目だよ」と、冗談とも本気とも取れない口調で暁に囁いた。  *** 「暁、元気だったか?」 「え? あの……母さんは?」  母親を迎えに行った飛行場の到着ロビーに、見知った顔が現れた時、暁は一瞬頭の中が真っ白になり言葉に詰まった。 「あれ? 連絡行ってない? 昨日突然、裏の三宅の爺さんが亡くなって、姉さんいつも面倒看てたから、葬儀終わるまで一緒にいるってさ。で、研修はキャンセルしたけど、飛行機とホテル取ってあるから俺に行って様子見て来いって」 「……あ、ホントだ。何件も着信来てる」 「だろ? お前、半日に一回くらい携帯見ろよ」 「ごめん、でも、睦兄……仕事は? それに、三宅のじいちゃん亡くなったって……だったら俺も帰って、会いたい」  若い頃妻に先立たれ、こじんまりとした一軒屋に独り暮らしをしていた三宅は、忙しい母に代わって、良く面倒を見てくれていた。  暁にとっては祖父のような存在だ。  そして今、目の前に立つ男は、白鳥(しらとり)睦月(むつき)といって母の三番目の弟に当たる。  まだ二十代後半と……年も母ほど離れてないから、子供の頃は兄のように慕ってまとわりついていた。 「気持ちは分かるがそれは無理だ。暁……分かってるだろ」 「けど、じいちゃん、俺のせいで……」  三宅との日々を思い出せば、目の奥がツンと痛くなり、視界が徐々にぼやけてくる。 「暁、話は今晩ゆっくりしよう。ここで泣かれたら俺が困る」  ポンポンと肩を軽く叩かれ、ここが空港のロビーだったと思い出して暁が頷くと、「いい子だ」と答えた睦月が、笑みを浮かべて頭を撫でた。  それから、先に荷物を置いてしまおうと二人で一緒にホテルへ行き、睦月の希望で暁のアパートと大学を案内した。

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