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第46話
「あとはホテルに帰ってからだ。葬儀には出れないけど、一緒にじいさん送ってやろうな」
「……ありがとう」
本当ならば睦月も葬儀に参列したかったはずなのに、仕事を休んで母の代わりにわざわざ来てくれたのだ……と、分かっていたから暁は彼らの優しさにまた泣きそうになった。
食事を済ませてホテルへと戻り、酒の入った睦月と二人で夜遅くまで話し込み、翌朝起きた時にはすでに時計の針は九時を回っていた。
「……睦兄?」
ゆっくり身体を起こしながら、隣のベッドを確認するが、そこに睦月の姿は無い。
(そうだ、睦兄は朝が早いんだった)
どんなに飲んでも遅くに寝ても、起床時間はいつも早かったと思い出しながら頭を掻くと、バスルームのドアが開いて睦月が中へと入ってきた。
「おはよう。やっとお目覚めか?」
「おはよう、ごめん。睦兄は何時から起きてたの?」
「俺? 俺は六時に起きてちょっとその辺を観光がてら走ってきた」
「相変わらずタフだね」
爽やかな笑顔につられて暁も自然に頬が緩む。
「暁、お前顔洗って来いよ、俺腹減って死にそう」
「もう限界だ」と言いながら、ベッドに倒れてみせる睦月に、吹き出した暁は「ちょっと待ってて」と着替えを手に取りユニットバスの中へと入った。
それから、少し遅めの朝食をとり、スカイツリーへ行きたいと言う睦月の希望を叶えるために、最寄りの駅から地下鉄に乗った。
夕方には飛行機に乗って帰らなければならないが、浅草付近なら遠くはないから少しはゆっくり出来るだろう。
「そういえば、昨日聞こう思って忘れてたんだけど、お前、樹 に会ってないか?」
「樹って……前原樹 ?」
思いもよらない名前が出てきて暁は瞳を見開いた。
「ああ、春先に連絡先を聞きたいって電話があったって姉さんが言ってた。とりあえずお前に聞いてからって答えたらしいけど」
「俺……何も聞いてない」
その名前を耳にしただけで心臓が酷くうるさくなる。
「ごめん。俺、余計な事言ったな」
「ううん。母さんに気を使わせちゃったみたいだ。今度俺から聞いてみる」
樹と暁は幼い頃から仲が良く、睦月にも良くなついていたが、中学の頃起こった出来事によって疎遠になっていた。
正確には、疎遠というより、中心になって暁をクラスから孤立させたのが樹だった。
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