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第52話
【参】
「暁、暁だろ?」
「……樹?」
それは、バイト先で本の補充をしている最中の事だった。
自分の名前を呼ぶ声に暁が反射的に顔を上げると、そこに居たのは先日睦月の話に出てきた幼馴染み、前原樹その人だった。
「やっぱり暁だ。久しぶり」
「……久しぶり」
驚いた暁は動きを止め、高校以来久々に会った樹を見上げて答えるが、どうしても顔は強ばってしまい声も微妙に震えてしまう。
「偶然この店入ってよかった。俺、ずっと暁に会いたいって思ってたんだ。バイト何時まで?」
嬉しそうな笑顔を浮かべてそう告げてくる樹に対し、なぜ普通に話が出来るのか分からず暁は動揺した。
(樹にとって、大したことじゃなかった?)
心の中を、もやもやとした感情が占めていく。
「……今日は、ちょっと」
「じゃあいつならいい?」
断ろうとして口を開けば、間髪入れずにそう聞いてくる樹は以前から変わっていない。爽やかな好青年といった顔をしているが、強引で、人の都合や感情などはお構いなしだ。
「ごめん。今、バイト中だから」
「暁がいつなら平気か言ってくれたら、すぐ帰るよ」
「そんな時間は無い。悪いけど、もう俺には関わらないで欲しい」
背中を向けて本音を告げれば、息を飲むような気配がしたが、構わず暁は手を動かして本の補充を再開させる。
彼に対してハッキリと否を伝えたことなど無かったから、きっと驚いているだろうが、もし怒らせても構わないと暁はこの時思っていた。
「そっか、分かった。仕事中に悪かった、また来るから」
「っ!」
肩を後ろから軽く叩かれ、ビクッと体が震えてしまう。そんな反応に苦笑めいたため息を漏らし、樹はそこから立ち去った。
(また来るって……なんで?)
時間にして三分足らずのやり取りだったが、まさか偶然会うなんてことは無いと思っていただけに、動揺した暁の心臓はドキドキと大きく脈打つ。
それから……仕事が終わるまでの数時間、仕事もろくに手につかず、それでも何とかこなしはしたが、頭の中は樹の事で一杯になってしまっていた。
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