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第57話

「話があるならここですればいい」 「やっと答えてくれた。暁は昔から頑固だもんな。ここじゃできない話だから、こうしていつも来てるんだ。一度だけでいいから、時間をくれないか? 暁が俺を逆恨みしてるのも分かってる。だけど、だから……話したいんだ」 「逆恨み……だって?」  思わず手を止め睨むように樹の顔を見つめると、精悍な顔に困ったような笑みを浮かべ、「まあ、俺はそう思ってるけど……暁は違うだろうから、それも含めて話したいってこと。で、いつならいい?」と、逆に質問を返される。 「白鳥君、ちょっといい?」 「あ、はい、今行きます」  憤りに声を荒げてしまいそうになった暁の耳へと、タイミング良く自分を呼ぶ小泉の声が聞こえてきたから、すんでの所で唾と一緒に言葉をなんとか飲み込んだ。 「暁、返事は?」 「今日、バイト終わるの十一時だから……それからでよければ」 「了解。待ってる」  無視して立ち去ろうとしたけれど、肩を掴まれ断念した。どのみち、このままでは仕事に支障が出てしまうし、きっと樹は暁がイエスと言うまで来るつもりだろう。  それに、今日は唯人に呼ばれていないから都合もいい。 (それで、樹の気が済むなら……) 「一緒に休憩入るって言って来たから、彼がいなくなるまでここにいなよ。白鳥君、随分付きまとわれてるみたいだけど、大丈夫?」  バックヤードに入ったところで心配そうに尋ねられ、樹を自分から引き離す為にわざわざ呼んでくれたと分かった。 「ありがとうございます。同郷の奴なんですけど、ちょっと訳があって……助かりました」 「いや、いいんだけど何かあったら言って欲しい。唯の事もだけど……白鳥君、ホントは無理してない?」  誰もいない事務所の椅子へと誘われるまま暁が座ると、向かいの椅子に座った小泉が小さな声で尋ねてくる。  あれから……唯人と小泉とその恋人が、鉢合わせたあの日から、小泉は数日休んだものの、それからは普通に出勤するようになっていた。  少し話をしたけれど、暁が唯人を大切な友人だと思っていると伝えると、何かを悟ったような顔をして、「僕も白鳥君の友達のつもりだよ。だから、何か悩みがあったら……遠慮しないで家においで」と、頭を撫でて言ってくれた。

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