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第61話

 ***  田舎の噂は直ぐに広まる。 『三宅のじいさんが、男子中学生に、いかがわしい行為をしているらしい』  当時は何故、そんな噂が広まったのか分からなかった。  子供達が学校単位で作っている、ネットコミュニティから広まったという情報は、事情を聞きに来た警察官から母親が聞いたものだ。  最初の情報は、『家の前を通りかかったら、三宅のじいさんと白鳥がキスをしていた』という物だったらしいが、当たり前だがそんなことはしていない。  思い当たる節があるといえば、縁側で、目に入ったゴミを見てくれていた時か、テストで良い点を取った時、頭を撫でて貰ったくらいだ。 『ずっと独り者だし、白鳥さんの息子も、いつも一人で通っていた』 『あそこの息子さん女みたいだし、大人しいから逆らえないのでは?』 『裸で抱き合っているところを見たって話だ』 『脅迫されているのでは?』  子供が親に、親は地域に噂を流し、真実では無い情報が、まことしやかに囁かれ、警察は母が説明したから誤解だと分かってくれたが、今度は警察までが動いたと噂は更に大きくなった。  そしてしまいには……最初に見たのは自分であると樹に学校で公言された。  その時、『暁は強要されただけだろ?』と、樹が聞いてきたのは多分、彼なりの助け船だったのだろうが、暁には嘘など言えやしない。  三宅はそんな人間じゃないと(かば)った暁は、町会議員の息子でもあり、人気者の樹を敵に回すような格好となり、それからは噂の内容に『合意だった』とか『白鳥はホモだ』といったような尾ひれがついた。 (俺が、もっと強かったら……)  当時の暁は、自分が同性愛者であると自覚したばかりだったから、それを他人に見破られたような錯覚に陥った。だから、強く言えずに自分の殻に閉じこもる道を選んでしまった。 (じいちゃんにも、会えなかった)  三宅は暁の事を案じ、当分来ない方がいいと言ってくれたと母から聞いたが、この噂が広まったせいで、一番辛い目に遭ってるのは三宅だと分かっていただけに、余計に会いに行けなくなった。

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