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第62話
母親は、あらゆる手段を使って相手を訴えることも出来ると言ったが、それでは未成年の暁や樹に傷が残ってしまうと、相談をした担任に言われ、小さな町だから噂なんてすぐに無くなると説得された。
言葉通り噂自体は数ヶ月で消えたけれど、学校での暁の居場所は結局戻ることが無かったし、三宅も偶然会った時には会釈くらいはしたけれど、暁とサイクルをずらしているのか? 姿はほとんど見なくなった。
そして暁自身……同性愛者であるということが、どうしても後ろ暗く、三宅に話し掛けられないまま時だけが流れていった。
(最後に、会ったのは……)
会ったというより、見たという表現のほがきっと正しい。
上京の日。
町で初めて日本の最高学府に合格した事を、三宅はとても喜んでいたと睦月からは聞いていたが、また自分が会いに行くことで、おかしな噂が再燃したら申し訳ないと思っていた。
もしかしたら、三宅は怒っているかもしれない。
そんなことは無いと睦月は言ったけど、この頃の暁は周りに対して臆病になりすぎていた。
飛行場へと向かうため、母の運転する車に乗り家を出て、すぐ先の角を曲がったところに三宅が立っていた時は驚いた。
車から降りようとした母を、手で制した三宅の姿は記憶よりも小さくなってしまったような気がしたが、毅然とした立ち姿は変わらないものだった。
『がんばれよ』
唇がそう動いたのが分かったから頷いた。
大好きだった笑顔を見て、胸が張り裂けそうになった。
『ごめんなさい』と言いたかったのに、言葉にならずに涙になり、それから飛行場までの間、暁は嗚咽を漏らし続けた。
横を見ると、運転している母の頬にも涙の筋ができていて、暁の意志を尊重しながら、果たしてそれで良かったのかと、自問する日々が続いたとそこで初めて告げられた。
(きっと……みんな、悩んでた)
『被害者だ』と、誰かを完全な悪者にすれば、いっそ心は楽だろう。だけど、個々の事情を考えれば、そう簡単に割りきれない。
(友達に、戻りたい……か)
「暁、またどっか行ってる?」
「うわっ」
急に耳元で響いた声に、驚いた暁が背後を見遣ると、唯人がそこに立っていた。
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