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第63話

「びっくりしすぎ」 「だって唯、いつもあっちから来るから、まさか後ろから来ると思わなかった」  待ち合わせは学校近くのオープンカフェだったから、いつも唯人が姿を見せる方へ向かって座っていた。ぼんやりとはしていたが、立っているだけで目立つ唯人を暁が見過ごすはずもない。 「そっか。いつも俺の来る方見ながら待ってくれてるんだね。今日は寄るところがあったから、反対から来たんだ。暁、飲み物まだある?」 「……今、飲み終わったところ」  クスリと喉で低く笑い、頭を撫でてくる唯人の顔が、気恥ずかしくてまともに見れない。 「じゃあ行こうか」 「うん」  彼に促され席を立ち、そのまま一緒に歩き出すけれど、今日これからどこに行くのか暁は知らされていなかった。 『三日くらい、まとまった休み取れる?』と、訊かれたのが一週間ほど前になる。ちょうど樹と二人で話した次の日の事だった。  折角の夏休みだから、一緒に旅行に行きたいと言われ心拍数が一気に高まった。 (どうして、俺なんかと?)  瞬時に暁の頭の中を、自虐的な疑問が過ったが、口に出すことは出来なかった。理由はどうあれ折角の誘いを受けない選択肢なんてない。  ちょうど先週小泉に頼まれ、シフトを替わっていたお陰で、暁は今日からの三日間……偶々オフになってた。 (どこに行くんだろう?) 「暁、乗って」 「え? ちょっ……唯、これって」 「ほら、早く」  少し歩くと路肩に黒塗りの高級車が停めてあり、傍らに立つスーツを纏った男性が、恭しく頭を下げながら後部座席のドアを開いた。 「話は中でする。とりあえず乗ろう」  驚きに口を開閉させる暁に綺麗な笑みを向けながら、唯人は腰へと手を回し、車の中へと暁を誘った。続いて彼が中に乗り込むと、心得たようにドアが閉まる。 「唯、これは、一体……」  走り出した車の中、暁がなんとか言葉を紡ぐと、唯人は長い脚を組みながら、「旅行だよ」と、返事をした。

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