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第65話
「暁は、俺の傍に居たいんだよな?」
そんな動きを制するように大きな掌が髪を掴み、暁の顔を上向かせるように強い力で背後に引いた。
「唯、痛い」
平静を装おうとしたけれど、情けないことに声が震える。一変した彼の雰囲気に目の奥の方がツンとした。
「返事は?」
暁の主張はサラリと無視され、更に強く髪を引かれる。綺麗な顔は優しげな笑みを変わらず浮かべているけれど、その瞳は温度を持たない宝石のように冷たく見えた。
***
「傍に……居たい。俺、唯が怒るようなこと、した?」
聞かなくても答えなんて最初から分かっている。不安げに揺れる瞳の縁には涙がうっすら滲んでいた。
(少し、自由にさせ過ぎた)
狭い世界で完結していた高校時代とは勝手が違い、大学というフィールドは、彼を完全に手中に置くのが想像以上に難しい。
ただ閉じこめるだけなら楽だが、それでは唯人が楽しめない。
「まあ、それが面白いんだけど」
唯人が小さく呟くと、眉尻を下げた暁がこちらを縋るように見上げてきた。
「そんな顔しないで、怒ってない。ただ、隠し事をされるのは悲しいな」
告げながら……頬を指でゆっくり撫でれば、青ざめていた肌がうっすら赤く染まっていくのが分かる。
嫉妬とも取れるように紡いだ唯人の言葉を、彼がどう捉えているのか手に取るように分かるから……それが愉しくてたまらなかった。
期待しないようにと喘ぐ彼の心の葛藤が、噛み締められた唇から伝わり、それが唯人の心を潤す。
「……隠し事なんて、してない」
「そう? でも、それを決めるのは暁じゃない」
空いている手でズボンの上から股間をスッと撫で擦ると、困ったように視線を彷徨わせ、小さく「ごめん」と謝罪した。
きっと、抵抗は出来ないけれど、行為は止めて欲しいと考えた彼の精一杯だろう。
「ピアス、見せて」
ベルトとズボンの留め具を外し、耳朶を甘く噛んで囁けば、ピクリと体を震わせながら、ゆるゆると首を横へ振った。
「暁、違う。俺は訊 いてるんじゃない」
「でも、こんな所で……」
「馬鹿だな」
彼の首からチョーカーを外し、溜め息混じりに呟くと……何をされるか分かったのだろう、震えは更に大きくなる。
抗えない暁の首筋に唯人はチュッと吸い痕を付け、それから掴んだ彼の手首を背後に回して拘束した。
「これも……俺といない時、外してるよな」
「っ!」
指先で軽くチョーカーを弾き、冷たい声音で唯人が問うと、腕の中で震える体が分かりやすく硬くなる。
「これに発信器が内蔵されてるって……叶多に言われた?」
誰に入れ知恵されたかなんて聞かなくても分かっているが、敢えて問えば弱々しく、「違う」と答える暁をもっと追い詰めたい衝動が、唯人の中からわきだした。
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