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第79話

「なっ! 唯、何をっ……」 「聞いてなかった? 行くって言ったろ」  呆れたように喉で笑われ、意味が分からず動揺する。 「行くって……どこへ?」  質問に答える声はない。  彼の意図は分からないが、おかしな状況だと思っても、拒否することは出来なかった。  そもそも、唯人が何を考えているか分かった試しがまるでない。 「なあ暁、ここ、痛い?」 「っ……触…るな」  屋敷とは逆の方向へと歩き始めた唯人がいきなり着衣の上から暁の後孔をトンと指の腹で叩いた。  途端、鈍い痛みがそこから生まれ、消え入りそうな細い声で暁は制止を求めるが……今度は臀部を優しく撫でられ妙な感覚に囚われる。 「んっ……うぅ」 「着いたよ」  疼きに吐息が漏れたところで、唯人の足がピタリと止まった。続いて耳に入ってきたのは鍵を開ける金属音。  起こる全てが予測不可能で、暁は軽い眩暈を覚えた。 「この離れは景色がいいんだ」  どうやら別の建物へと運ばれて来たらしい。  ドアから中へと入った唯人は、革張りの豪奢なソファーへ暁の体を丁寧に降ろすと、大理石のテーブル上からリモコンを取って操作する。  すると、壁一面を覆っていたカーテンが開き始め、その向こうに広がる景色に暁は唾をコクリと飲んだ。 「綺麗……だ」  澄んだ池を囲むようにして植えられている薔薇の花。その向こうには森が広がり、奥には雄大な山が見えた。  窓のすぐ外に視線を戻せば、ウッドデッキが桟橋みたいに池へとせり出している。 「気に入った?」  隣に座った唯人に聞かれ、前を見たまま頷くと、「暁、口が空いてるよ」クスクスと笑う声がしたから、慌てて暁は唇を閉じ、「だって、ホントにびっくりしたから」と答えながら、思わず唯人の顔を見た。 「やっとこっちを見た」  視線の先、嬉しそうに口角を上げる彼を見て、顔に熱が集中するのが分かるからかなり恥ずかしい。

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