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第80話
「昨日は無理させてごめん。嫌だった?」
暁の癖毛を弄びながら、尋ねる彼は知っている。
何をされても、身代わりでも、嫌とは答えられない事を。
(でも、俺は……)
「そんなこと、ない。けど……ちょっと怖かった」
本当は凄く怖かったけれど、そんな風には言えなかった。
「うん、怖かったよな。暁が嫌ならもうしないから」
「違う……嫌じゃなかった。嫌な訳じゃ……」
以前ゲームに勝った唯人は否と言う権利は無いと暁に告げ、それ以降……こういった質問をされた事は無かったと記憶している。
「なら良かった。嫌われたらどうしようって思ってた」
「唯は、どうしてそんな事、聞くの?」
ホッとしたように微笑む唯人に気付けば疑問を投げかけていた。
「どうしてだと思う?」
「それは……分からない」
「じゃあ、帰るまでに考えてみな」
だけど、懸命に紡いだ問いかけは……いつもと同様にはぐらかされる。
(もしかして……答えを知ってて遊んでる?)
暁が嫌とは言わない事を確信している唯人だから、試すような質問をして遊んでいるのかもしれない。
そう考えるのが一番楽で妥当だが、それではあまりに惨めだから暁は言葉を飲み込んだ。
「朝食はこっちに運ぶように言ってある。まだ時間があるから、少し外に出ようか」
ウッドデッキを指で示され頷くと、自然な形で暁の手を取り唯人はゆっくり立ち上がる。まるで恋人のような触れ合いに暁の心臓が音を速めた。
***
繋いだ暁の掌が、僅かながらに震えている。
不安定な心理状態が手に取るように分かるから、それを解すよう接しているが、唯人の狙いは別にあった。
「……そこの花だけ薔薇じゃない?」
「うん、それは桔梗 。御園家では俺を表す花だ」
ウッドデッキへ誘うと、周りに咲く花へと目を向けこちらを見ようとしない暁に、胸の奥がモヤモヤするが、その理由には目を向けない。
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