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第81話

「唯の……花?」 「古い家柄だからね。産まれた時に決められるんだ。書類の封印とか、持ち物への刻印に使う」  握る手に軽く力を込め、屈むようにして顔を覗けば、視線が合っただけだというのに一気に頬が赤くなった。 「暁、もしかして恥ずかしい?」 「……恥ずかしい」 「なんで?」 「だって、昨日、あんなこと……」  答えなど分かっているが、それでも彼に言わせたい。だから続きを促すと、泣きそうに顔を歪めた暁が縋るようにこちらを見た。 「あんなことって、気持ち悦過ぎて漏らしたこと? それとも……もっとって言いながら、自分から腰を振ったこと?」 「唯、お願いだから……言わないで」 「どうして? 可愛かったよ。暁も嫌じゃ無かったんだろ?」  繋いでいる掌へとキスを落として囁くと、驚いたようにこちらを見るから、更に追いつめてみたくなる。 「嫌じゃない、嬉しかった……唯が、俺の身体、使ってくれて」  消え入りそうな細い声で、必死に言葉を紡ぐ暁に、満足した唯人は微笑みその頬へと口づけた。  当たり前だ。彼が一番欲している物をようやく与えたのだから。 「暁、セックスだ。使うなんて思ってない」  顎を持ち上げ視線を合わせ、真摯な声音を作って告げると、不安げに揺れる瞳の奥に希望の色が微かに浮かぶ。 「でも、唯は同性愛者じゃないだろ?」 「男とか、女とか、そういうのは関係ない。俺は、暁を抱きたいと思ったから、抱いたんだ」 「唯は……優しいな」  期待と不安がない交ぜになった暁の表情を目に映し、可愛いものだと唯人は思う。 「暁だけにはね」  彼の欲しがる甘言を紡ぎ、唇の端を上げながら……ここまで来ても自分を疑うことをしない素直さに、どうしようもなく無茶苦茶にしたい衝動がわき上がってきた。  だから――。 「……っうわ!」  その感情を抑える事無く、暁の身体を唯人は強く突き飛ばす。  水飛沫(みずしぶき)を上げ池の中へと突き落とされてしまった暁は、今の状況を全く理解できていない事だろう。

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