84 / 188

第85話

「くっ……うぅ」 「暁、隠すな」  咄嗟に前へと掌を伸ばし、ペニスを隠そうとするけれど、非情に響く唯人の声は、そんな行為も許さない。  命じる声に呼応するように、動いた工藤が手首を掴み、万歳をさせるみたいにそれを上へと引き上げた。 「あっ」 「震えてるね。寒い?」  近づいて来た唯人が優しく囁きかけてくるけれど、足を見るのが精一杯で、顔を上げることが出来ない。  逃げ出さないと決意はしたが、何をされるのか予測も付かない恐怖心は拭えなかった。 「……寒い」  ガタガタ奥歯が鳴っているのは寒いからでは無いのだけれど、そう答えないといけないような気がして暁は細く呟く。 「そう。じゃあ、先に風呂で暖まろうか。出たら朝食にしよう」 「そう……だね」 「白鳥様、立てますか?」 「……すみません。ちょっと、無理です」  立とうと試みてはみるものの、腰が立たなくなっていた。  情けない話だけれど、それをそのまま言葉にすると、工藤の腕に力が篭もる。 「いいよ工藤、俺が連れていくから……上がったら食事にして」 「承知いたしました」  工藤に抱き上げられた瞬間、かけられた唯人の言葉に暁の身体は知らず強ばり、彼の腕へと渡された途端、緊張の余りまるで貧血を起こしたみたいに、視界が歪み白く染まった。 「暁は……本当に面白い」  そんな暁の状態を、知ってか知らずか愉しそうに喉を鳴らして唯人が言う。 『面白い人間なんかじゃ無い』と答えたかったけれど……えもいわれぬ恐怖に包まれ、震えることしか出来なかった。 【参 終わり】

ともだちにシェアしよう!