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第85話
「くっ……うぅ」
「暁、隠すな」
咄嗟に前へと掌を伸ばし、ペニスを隠そうとするけれど、非情に響く唯人の声は、そんな行為も許さない。
命じる声に呼応するように、動いた工藤が手首を掴み、万歳をさせるみたいにそれを上へと引き上げた。
「あっ」
「震えてるね。寒い?」
近づいて来た唯人が優しく囁きかけてくるけれど、足を見るのが精一杯で、顔を上げることが出来ない。
逃げ出さないと決意はしたが、何をされるのか予測も付かない恐怖心は拭えなかった。
「……寒い」
ガタガタ奥歯が鳴っているのは寒いからでは無いのだけれど、そう答えないといけないような気がして暁は細く呟く。
「そう。じゃあ、先に風呂で暖まろうか。出たら朝食にしよう」
「そう……だね」
「白鳥様、立てますか?」
「……すみません。ちょっと、無理です」
立とうと試みてはみるものの、腰が立たなくなっていた。
情けない話だけれど、それをそのまま言葉にすると、工藤の腕に力が篭もる。
「いいよ工藤、俺が連れていくから……上がったら食事にして」
「承知いたしました」
工藤に抱き上げられた瞬間、かけられた唯人の言葉に暁の身体は知らず強ばり、彼の腕へと渡された途端、緊張の余りまるで貧血を起こしたみたいに、視界が歪み白く染まった。
「暁は……本当に面白い」
そんな暁の状態を、知ってか知らずか愉しそうに喉を鳴らして唯人が言う。
『面白い人間なんかじゃ無い』と答えたかったけれど……えもいわれぬ恐怖に包まれ、震えることしか出来なかった。
【参 終わり】
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