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第89話

「食欲ある? 昼は全然食べてなかったけど」 「……平気。ちょっとバテてるだけだから、ちゃんと食べるよ」  一度拒否をして廃棄されるのを見て以来、彼の用意する高級そうなテイクアウトを、拒む事が暁には出来ない。  それに、済ませて来たと嘘を吐く事も、不可能なくらい監視されてしまっていた。 (どういうつもりなんだろう?)  軽井沢から戻って以来、唯人が不在の時でさえ、ほとんど自分のアパートには帰らせて貰えない。 「シャワー浴びておいで」  他愛のない課題の話をしながら食事を済ませると、これもまたいつものように告げられ暁は頷いた。  端から見れば、恋人同士のように見えそうなやり取りだけど、実際には全く違う。  まるで支配者と奴隷のような関係だと感じていた。 (友達……ですらない)  バスルームでコックを捻り、シャワーを浴びながら暁は考える。 『奴隷』なんて思ってはみたが、大抵の場面で唯人は暁に優しいから、流石にそれは言い過ぎだったと自分で自分を戒めた。 (でも……)  時折顔を覗かせる彼の残虐性に翻弄され、戸惑いながらも受け入れることに精一杯な暁の体は、気付けば普通と言える範疇(はんちゅう)を大きく外れてしまっている。 「こんな……」  無毛の股間は子供のようだし、ペニスに光るピアスの中にはGPSが埋め込まれていると唯人本人が言っていた。  更に――。 「……女みたいだ」  だいぶ違和感を感じなくなった左太股の内側を見て、暁は小さく呟きを漏らし、そっと指先をそこへと伸ばす。  肉付きの悪い白い肌上に、紫色の美しい花が咲いていた。  覚悟は既に決まっているが、ならば少しも迷わないのかと問われれば……そうではない。  唯人に近づきたいと思えば思うほど、その方法が分からなくて、彼の要求を聞き入れるしか出来なくなってしまっていた。

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