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第91話
前にやったと言っていたけれど、誰に施したのだろう。
その相手は……今も唯人の傍にいるのだろうか。
『……付けたら、俺を捨てない?』
『ああ、俺から捨てるような事はしない』
クスリと笑った唯人の声に、僅かな翳りを感じ取れたのは、長く一緒に居るからだろうか?
『だったら……いいよ』
思案の末に震える声で答えを絞り出した途端、強く体を抱き締められ、首筋へ強く吸い付かれ――。
(そう、俺が自分で決めた)
ウッドデッキで工藤と会話をした時に、覚悟は既に決まっていた。
これも、無理矢理彫られた物ではない。
追い詰められてはいたけど……自分自身で了と答えた。けれど、暁自身の心の中に、迷いが全く無い訳じゃない。
風呂から上がり、用意されていた食事を無理矢理流し込むと、内腿へ刺青を彫る作業はすぐに始まった。
連れて行かれた寝室には既に道具が整えられ、言われた通りにベッドへ上がると、バスローブを取り払われる。
『安心しろ。工藤は医師免許も持ってるし、彫り師としての腕もいいから』
両手首は頭の上、脚は左右に大きく開いた状態で拘束され、ひっくり返った蛙のような体勢に暁は震え出すけれど、胸の尖りをゆっくり撫でられ恐怖はすぐに吐息に変わった。
『うっ……ん』
朝食の中に仕込まれていた催淫剤が効きはじめ、思考が鈍くなっていたのだが、暁には知る由もない。
それから……針がチクリと皮膚を刺す度、襲う痛みに暁は悶え、何故か生まれる愉悦に戸惑い、ひたすら唯人の名前を呼んだ。
『……い、ゆい……』
『大丈夫、ここにいる』
そんな暁を宥めるように、唇や頬に優しいキスを何度も落としてくれたから……それだけで、暁の心は歓びに包まれた。
『随分感じてしまっているようです。このままでは作業に支障が出ますが』
『なら、これを挿してからゴムを被せておけばいい』
『承知しました。白鳥様、失礼します』
『な、ひっ……やっ、あ゛ぁっ!ふ……んぅ』
催淫剤のせいで勃起したぺニス先から溢れ始めた透明な液体を、押し込めるようにブジーが挿され、暁は悶絶するけれど……同時に口を深く塞がれ、悲鳴は途中で立ち消える。
『やっぱり……暁は痛いのが好きなんだな』
口が離れたと同時に言われた唯人の言葉の意味すら分からず、繰り返し『好き』と舌っ足らずな喘ぎ交じりの言葉を紡いだ。
刺青を彫る作業自体にそこまで時間は掛からなかったが、終わった後が暁にとっての辛い時間の始まりで――。
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