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第101話
「あの、いつもありがとうございます」
図書館を出て少し歩き、大学の門をくぐったところで隣を歩く工藤を見上げ、再度礼の言葉を告げると、クスリと笑った彼は手を伸ばし頭を軽く撫でてくる。
「律儀 な人だ。付けられた見張りに礼を言ってどうするんです」
「見張り……なんて、思ってないです。俺なんかに付き合わせて申し訳ないと思ってます」
素直な気持ちを口に乗せると、驚いたような顔をした後、工藤は笑みを深くした。
もうかれこれ一週間、こんな日々が続いている。
日本にいない唯人に代わって、外出の時は大抵工藤が傍に付いているけれど……唯人が何故そうさせたのかは考えてみても分からなかった。
『十日……間?』
それは――久々に唯人と繋がった次の日の事だった。
『うん。急にイギリスに行かなきゃならなくなった』
軽く体を揺さぶられ、重たい瞼を開いた暁は、目の前にある端正な顔に一気に意識を覚醒させる。
すると、額へとキスを落とした唯人は『これから10日、出掛けてくるから』と、まるで散歩にでも行くみたいにサラリと暁に告げてきた。
『……今から?』
『世話は工藤に頼んであるから、帰らないでここに居ろ』
『え? でも……』
『返事は?』
柔らかいけれど有無を言わせない雰囲気に……暁が慌てて頷き返せば、長い指先がこちらへ伸びて、誉めるみたいに顎を擽る。
『バイト先と、学校にしか行っちゃダメだ』
『分かった。唯……気をつけて』
思考がまるで追い付かず、過保護とも取れる発言の意味も考えられずに返事をした。
『……っ!』
すると……顎を指先で持ち上げられて、口で唇を塞がれる。
昨日の余韻の残る体は簡単に熱を持ち始めるが、舌は歯列をなぞっただけで、すぐに離れていってしまう。
『……あっ』
『じゃあ、行ってくる。いい子で待ってろ』
名残惜しそうに響いた声と、それを笑う低い声。
意地悪な笑みを浮かべた唯人は、『寝てろ』と言い残しそのまま部屋を出ていった。
(今頃、どうしているんだろう?)
考えてみれば、入学してからこれまでの間、こんなに長く唯人と離れた事はない。
いつも自然に傍にいたから、唯人の不在はどうしようもなく暁を心許なくさせた。
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