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第104話

 小鳥の名前は小泉叶多。  幼稚舎から高等部までを同じ学び舎で共に過ごし、自分を慕う彼のことを所有物だと思っていた。  幼い頃より、自分と叶多の父親同士が愛人関係にあるという噂を何度も耳にしたから、その息子の叶多に最初は好意はまるで持てなかったが、父が仲良くしろというから仕方なく傍に置いていた。 (いつからだろう?)  心の中にほんの僅かな違和感を持ちはじめたのは。  その感情は成長し、いつしか彼を壊したいという強い衝動がわき起こった。  だが、経営者の息子という立場上、そんな事は出来やしない。  だから、表面上は常に優しく、労りを持って接しながら、陰では他の生徒を操り彼をいじめの標的にさせた。  いじめを自分に悟られまいと、必死に隠す姿を見て……唯人の心は言いようのない高揚感に包まれた。  いじめは徐々にエスカレートし、高校に入った頃には、見ただけで分かるくらいに叶多は日に日に憔悴していった。 『どうした? 大丈夫?』  何度となく繰り返した問いかけ。 『平気だよ、何でもない』  そう、返事をするのは分かっていた。  酷いことをしているという自覚は確かにあったものの、それでも己を止められぬほど、唯人の心は得体の知れない黒い感情に侵されていた。  *** 「唯人様は、生まれながらの支配者です。同じ場所に立ち、同じ景色を見ることの出来る存在は……残念ながら彼の友人にはなれない。この意味が分かりますか?」  適当に選んだのだと思っていたカフェだったが、店内へ入るとすぐに二階の個室へと通された。暁は少し驚いたけれど、それが何故かを尋ねようとは思わない。  窓際のテーブルへと向かい合わせに腰を降ろし、注文を取ったウエイターが室内から退出すると、すぐに工藤から問いかけられて、暁は一瞬答えに詰まった。 「敵に……なるからでしょうか?」 「その通りです。ですから、唯人様は友人を作らない。利害の絡む関係では常にご自身が上に立ち、自分に追従するものに対し情を掛けることもない。もちろん彼も人間ですから、気に入った人間を(そば)に置くことはありますが、思う通りに動かなければ、簡単に捨てることが出来る」 「……そう…なんでしょうか?」  工藤の言葉に思い当たる節は確かにあったけれど、暁はどうにも釈然(しゃくぜん)としない。

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