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第106話

「白鳥君は、真っ直ぐで、正直な人ですね」 「いえ、そんな……俺はただ、唯に捨てられるのが怖いだけで……工藤さんにも恥ずかしいところ、沢山見られたから、呆れられているんじゃないかと思ってました」 「呆れてなんかいません。私は……唯人様に仕えながら、その命令の全てに従う事が、自分の仕事だと思って来ましたし、今もその姿勢に変わりはありません。ただ、過去に起こったある事件で、時には身を呈してでも、お止めしなければならない場面があるということを学んだので、唯人様が日本を離れているこの機会に、お話を伺っておきたかったのです。職務を逸脱した答え辛い質問に、答えて下さってありがとうございます」  頭を下げる工藤に慌てて暁も頭を深く下げた。  彼の言う『過去の事件』が内心かなり気になったけれど、唯人が自分で言わない事を聞こうだなんて思わない。 「唯人様は明後日の午前中に帰国される予定です。アルバイトも無いようですので、一緒に成田で迎えましょう」 「はい。是非そうさせてください」  たった10日ほどだというのに、暁にとって唯人と会えない日々は長く感じられた。  近々帰って来るとのメールは数日前に届いていたが、それがいつかは知らなかったから、彼を空港で迎えられるのは素直に嬉しい。 「……あっ」  工藤に優しく促され、残りのカフェオレを啜っていると、鞄に入れたままになっていたスマートフォンが着信音を響かせた。  取り出して、液晶画面を覗いて見れば、そこには久々の睦月の名前。 「どうぞ、私は少し外しますので」 「いえ、メールなんで大丈夫です」  メール本文を開きながら、立ち上がりかけた工藤を引き留め、素早く文面に目を走らせると、今度は暁が立ち上がる。 「どうかされましたか?」 「北海道の叔父が……今羽田を出て、こっち向かっているそうです。来る連絡は無かったんですが、いつも唐突な人なんで……とりあえずアパートに戻って、それから宿泊するホテルに行きます」

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