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第107話

「そうですか。では、少し離れた所からの警護に切り替えさせて頂きます。水入らずを邪魔するようで申し訳ありませんが、これも仕事ですので」 「構わないです。こちらこそ、すみません」  警護を必要とするような人間では無いうえに、気を使わせてしまったことを、申し訳なく思って暁は頭を下げた。  二泊三日の日程だから迎えに行けなくなると告げ、その旨を唯人にメールしながら暁はカフェを先に出る。  すると、ものの1分も経たない内に着信音が鳴り始め……表示されている名前を目にした暁の心臓は大きく跳ねた。 「もしもし」 『一緒に泊まるの?』  通話ボタンを押して応じると、開口一番唯人に問われ、暁は一瞬答えに詰まる。  前回睦月が来た時も快くは思ってないようだったけれど、言い訳をしても仕方ないから、小さな声で「うん」と答えた。 『分かった。じゃあ……明後日の夜』 「あ、唯……気をつけて」  簡潔過ぎる会話が終わると切られそうになったから、暁が慌ててそう切り出すと、小さく笑う音が響いてから、 『ありがとう』 との返事が聞こえ、それだけで胸が一杯になる。 (早く会いたい)  通話を切った暁は(しば)し、スマホを眺めて目を細めた。  唯人の優しい声音を聞いて、想いは一層厚みを増す。 「行かなきゃ」  前回一緒に泊まったホテルの最上階だと、睦月から来たメールにあった。  仕事柄、睦月の休暇は不定期で、気候や漁協の都合などで突然決まる事も多いから、たまたまバイトのシフトが休みで良かったと暁は考える。 (それにしても)  何かあれば必ず電話をしてくる睦月が、メールだなんて珍しい。きっと彼のことだから、飛行機を降り、電車に乗ってしまってから、連絡を忘れていたとようやく気が付いたのだろう。 「ん?」  一旦部屋へと立ち寄ってから、荷物を持って出ようとした時、再度睦月から部屋番号を伝えるメールが届いていた。  了解とだけ返事を送り、暁はホテルへと移動する。  この時、睦月に直接電話を掛けて確かめていれば良かったと……後から悔やむことになるのだが、他の誰もがそうであるように、怪しい所のまるで無い、身内から来たメールの内容を、疑ったり確かめたりする考えは全く浮かばなかった。

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