106 / 188
第107話
「そうですか。では、少し離れた所からの警護に切り替えさせて頂きます。水入らずを邪魔するようで申し訳ありませんが、これも仕事ですので」
「構わないです。こちらこそ、すみません」
警護を必要とするような人間では無いうえに、気を使わせてしまったことを、申し訳なく思って暁は頭を下げた。
二泊三日の日程だから迎えに行けなくなると告げ、その旨を唯人にメールしながら暁はカフェを先に出る。
すると、ものの1分も経たない内に着信音が鳴り始め……表示されている名前を目にした暁の心臓は大きく跳ねた。
「もしもし」
『一緒に泊まるの?』
通話ボタンを押して応じると、開口一番唯人に問われ、暁は一瞬答えに詰まる。
前回睦月が来た時も快くは思ってないようだったけれど、言い訳をしても仕方ないから、小さな声で「うん」と答えた。
『分かった。じゃあ……明後日の夜』
「あ、唯……気をつけて」
簡潔過ぎる会話が終わると切られそうになったから、暁が慌ててそう切り出すと、小さく笑う音が響いてから、
『ありがとう』
との返事が聞こえ、それだけで胸が一杯になる。
(早く会いたい)
通話を切った暁は暫 し、スマホを眺めて目を細めた。
唯人の優しい声音を聞いて、想いは一層厚みを増す。
「行かなきゃ」
前回一緒に泊まったホテルの最上階だと、睦月から来たメールにあった。
仕事柄、睦月の休暇は不定期で、気候や漁協の都合などで突然決まる事も多いから、たまたまバイトのシフトが休みで良かったと暁は考える。
(それにしても)
何かあれば必ず電話をしてくる睦月が、メールだなんて珍しい。きっと彼のことだから、飛行機を降り、電車に乗ってしまってから、連絡を忘れていたとようやく気が付いたのだろう。
「ん?」
一旦部屋へと立ち寄ってから、荷物を持って出ようとした時、再度睦月から部屋番号を伝えるメールが届いていた。
了解とだけ返事を送り、暁はホテルへと移動する。
この時、睦月に直接電話を掛けて確かめていれば良かったと……後から悔やむことになるのだが、他の誰もがそうであるように、怪しい所のまるで無い、身内から来たメールの内容を、疑ったり確かめたりする考えは全く浮かばなかった。
ともだちにシェアしよう!