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第108話

 ***  見ていて面白そうだ思い、同級生に混ざってみても、すぐに原理を理解してしまい途端つまらなくなってしまう。  幼稚舎の時代から、そんなことが何度も続いた。  勉強も、一度教科書へと目を通せば、すぐに頭へと入ってくる。  家庭教師も付いていたから、小学校を卒業する前に、大学レベルの難問すらも難なく解けてしまっていた。 (分からない事は、無いと思ってた)  当たり前のように周りを取り巻き達に固められ、全ての駒が唯人の手の内で思い通りに動いていく。  そんな、何の不自由も感じない学生生活を送るうち、唯人にとって周りの生徒は、ゲームの道具でしかなくなった。  そのほとんどの人間に、唯人の言いなりにならなければならない理由があるのは知っていたけれど、それに対してなんら引け目を感じたことはない。  持っているものを使うのは、当たり前だと思っていた。 (そう、あの時までは……)  その考えに変化が起きたのは高校二年生の夏。  自分の仕掛けたゲームで初めて、敗北を喫した時のことだった。 (あれから5年……か)  行われたのは標的である小泉叶多を、定められた期間の最後に手にしていた方が勝ち……という、単純な仕組みのゲームだ。  相手取ったのは、古くから家同士の確執があった須賀家の息子、悠哉だった。  最終日、叶多を手中に収めた唯人は勝利を確信していたが、奇襲とも言える作戦により、幼い頃からずっと傍にいた叶多を悠哉に奪われた。  それまでの出来事により、心因性の失声症を煩っていた叶多だったが、最後の最後に声を取り戻し、自分に(いな)を突きつけた。 『行かせてしまって宜しかったのですか?』 『ゲームに負けたんだ。渡すしかないだろ』  工藤の問いに答えながら、唯人は窓の外を眺める。  辺りは既に日が落ちていて、月もない闇夜だったから……波音だけが鼓膜を揺らし、どこまでも続く深い暗闇に吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥った。

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