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第110話

 イギリスから戻った日本の大学で……唯人は新しい小鳥を見つけた。  どこか叶多に似ているという理由だけで調べさせ、(たわむ)れに声をかけた相手は、すぐに自分へとなついてきた。 (そう、それだけだった。けど……)  たった10日離れただけだというのに何故か落ち着かない。  家庭教師を勤めた相手は金髪で碧眼の、見目の良い青年だった。父からの命令通り、ものの数日で手懐けたけれど、最終的には 「また会いに来る」 と甘く囁き、額へとキスを落としただけ。 (らしくない)  暁と出会った当初唯人は、セフレを抱いていたけれど……そんな時、暁が頭を過ることなどまるで無かった。  だが、何をされても喜ぶ彼を見るうちに……自分の為に尽くす小鳥を愛しいと思うようになった。  こういうのを、情が湧く……というのだろう。  今晩彼はどんな顔をして、自分に会いに来るのだろう?  東京の街を眼下に見ながら、照れたような笑みを浮かべる暁の姿を思い浮かべ……指で眼鏡を上げた唯人はその口角をわずかに上げた。  ***  遡る事二日前。  指定された部屋へと着いた暁を迎え入れたのは……メールをくれた睦月では無く、思いも寄らない人物だった。 「あ……え? なんで?」 「とりあえず入れよ」  突然のことに瞳を見開き、固まる暁の腕を掴んで、半ば無理矢理部屋の中へと引き入れながら彼は言う。 「樹、どうして? 睦兄は?」 「こうでもしなきゃ話せないだろ」 切羽詰まったような声音に、 「何かあったのか?」 と尋ねるが、それには答えず樹は暁をリビングのような部屋に誘った。 「とりあえず、座って」  いつもとは違う硬質な声に、胸がざわざわと騒ぎだす。  もしかしたら、部屋の中に睦月がいるかもしれないと……思って樹についてきたけれど、入った部屋には誰もおらず、状況の理解出来ない暁は、少しでも気持ちを落ち着かせようと深く息を吐き出した。  視線だけを動かして見ると、以前泊まった部屋とは違い、部屋も広く調度品も豪華に整えられている。 「樹、一体どうしたんだ? 睦兄から、頼まれた……とか?」  ありえない話じゃない。  メールの差出人の名前は睦月になっていたのだから、そう考えれば無理が無いと考えた暁は問いかけた。  だが、返ってきた答えはそれを、完全に否定するもので――。

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