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第113話

 有無を言わせぬ雰囲気に……声がまともに出せなかった。 「そうか。いきなり刃物向けられちゃあ不安になるよな。とりあえず戻って、話だけでも聞こうや」  穏やかな口調だけれど、逆らったら何をされるか分からないような含みがある。腕を掴む手に力が篭もり、彼がいては逃げられないと悟った暁は頷いた。 「……あっ」 「コイツは預かっとく」  ジーンズの後ろポケットから、スマートフォンを引き抜かれ、反射的に手を伸ばすけれども一睨みされて()()づく。  隙を見て、工藤に連絡しようと思った矢先のことに……不安は更に大きくなり、動悸が徐々に速まった。 「こっちだ」  さっき通されたリビングを抜け、奥の部屋へと連れて行かれる。 ドアを開けばベッドが見え、そこにも数人の男が居たから暁は驚き戸惑った。 「これ……は?」  まるで撮影現場のような機材がいくつも並んでいる。 「樹、話してやれ」  ベッドに座るように促され仕方なく暁が従うと、佐伯と呼ばれる男は樹に目配せしながらそう命じた。 「金が……仕送りだけじゃ足りなくて、ちょっとだけ借りたんだけど、返せなくなった。実家に言ったら勘当モンだし返せなきゃ彼女を風呂に沈めるって言われて、無理だって言ったら、ゲイビに出ろって……そんな時暁を見かけて、協力して貰おうと……」 「なに……ふざけたこと言ってんの? そんなのに協力出来るわけ……ない」 「別にいいじゃん。暁、ホモだろ? 顔出ししないって言ってくれたし、金、そうだ金、返済終わったら残った金の半分は渡すから。それに、暁のこと話したら、暁じゃないと駄目だって佐伯さんが……」  そこまで話し終えたところで、縋るように佐伯を見やった樹の姿を目に映し……少しでも信じそうになっていた自分の愚かさに泣きたくなる。 「って訳だ。本当なら兄ちゃんみたいな女顔より、コイツみたいなの掘らせた方が、相場のウケはいいんだが……」  言いながら……佐伯がチラリと樹の方へ視線を送ると、後退(あとずさ)りした樹の顔がはっきりと強ばった。

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