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第114話

「ま、待って下さい。俺はそんな話知りません。樹が勝手に言ってるだけで、了承もしていません」  今なら話を聞いて貰えるかも知れないと思った暁は、震える声で必死に佐伯へ無関係だと訴える。  (こく)な言い方かもしれないが、樹が自分で()いた種だ。    高校時代を思い出しても、自分が体を()してまで守るような理由が全く無い。 「兄ちゃんの意見は(もっと)もだ。最初は俺もコイツが誰を連れて来ても、本人にキッチリ落とし前つけて貰おうと思ってたんだ。だが、コイツの運がいいのか、ちょっと調べたら兄ちゃんの方が相当でかい金になるって分かった。だから、まあ、諦めてくれや」 「それって……どうい……」 「世間話はここまでだ。時間はたぷっりあるが、いつ邪魔が入らないとも限らない。安心しな。顔を出さない約束はキッチリ守ってやるよ」 「抵抗すれば、多少手荒なことはさせてもらうが」 と、続けられた言葉の途中で、なりふり構っていられなくなった暁は逃げ出そうとするが、数人いる男の一人に腹を蹴られて蹲る。 「ぐっ……うぅっ」 「骨は折るなよ」 「分かってます」  含み笑いを漏らす佐伯と、それに答える男の会話に、懸命に息を整えながらも絶望的な気分になった。 「ベッドに上げろ。相手の男優は?」 「準備を終えて隣室に控えてます」 「っ……やっ、やめろ!」  佐伯の指示で動いた二人にベッドの上へと放り投げれられ、体勢を整えようと暁は必死に足掻くけれど……乗り上げてきた彼らに四肢を押さえつけられ徒労(とろう)に終わる。 「元気がいいな。でも、いつまでそれが保つかな?」  頭上から響く佐伯の声。  怯みながらも睨み返すと、 「ま、すぐに従順になってもつまらないから、せいぜい頑張れや」 と、言い放ったあと、数メートル離して置かれた一人掛けのソファーに腰掛け長い脚を優雅に組んだ。  この男は何者なのか?  雰囲気から一般人じゃないのは分かるが、樹の家は裕福なのに、なぜ彼から金など借りる羽目(はめ)になってしまったのか?  暁の頭には次々色んな疑問がわいてくるけれど……すぐに洋服へ手を掛けられ、どうにかそこから逃れようと夢中になって藻掻くうち、思考は途中で止まってしまい、答えには辿り着けなかった。

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