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第115話

 ***  成田空港へ降り立った時、待っているはずの工藤はおらず、代わりに違う人間がいたから唯人は僅かに眉をひそめた。  暁の護衛を交代して迎えに来る予定だったが、来ていないということは何かイレギュラーでもあったのだろうか? 「おかえりなさいませ」  頭を下げる使用人に軽く頷きを返しながら、スマートフォンを取り出した唯人は機内モードを解除する。  飛行中、通話やメールのやり取りなどが出来る事は知っているのだが、(わずら)わしいから連絡を全て絶つように心掛けていた。  すると……すぐに数件の着信と、十数件のメールを受信した端末のライトが光る。  ほとんどは、緊急性の無い内容の物だったが、車に乗り込みながらその中の一件のメールに目を止め、その表情が、人から見れば分からないくらい僅かな緊張感を纏った。 「工藤か?」  すぐに工藤へと電話を掛け、簡潔に彼の報告を受けて唯人は爪を軽く噛む。 「すぐに行く」 と伝えるけれど、それを工藤に制止され……その理由にも納得出来たが、唯人は珍しく理屈の通った彼の提案を即座に拒否した。  受話器の向こうで息を飲むような気配はしたが、工藤はそれ以上意見はせずに、 「承知しました」 とだけ短く告げてくる。  変更になった行き先を、運転している使用人へと告げてから……唯人は深くシートに(もた)れ、外の景色をじっと眺めた。  一時間ほど車で走り、到着したのは御園のグループ企業が営む高級リゾートマンションだった。  車から降り、エントランスへと入っていくと、迎えに出ていた工藤が深く頭を下げてくるけれど、その頭には包帯が巻かれ、三角巾で吊られた左手もどうやら骨折しているようだ。 「申し訳ございません」 「その姿を見て怒れないよ。他の人間ならその程度じゃ済まなかったってことだろう? だから、工藤、お前は良くやった。怪我が治るまで休んでいい」 「いえ、休みは必要ありません。今は私より……」  丁度この時、会話をしながら乗り込んでいたエレベーターが、最上階のフロアへ着き、目の前のドアが開かれたから、唯人は人差し指を立てる。

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