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第116話

「全て俺の読みの甘さだ。嫌でも三日は休め、命令だ」 「承知しました。では、医師としての仕事が落ち着きましたら、休ませて頂きます」 「ああ、そうしてくれ」  生真面目な彼の言うとおり、この件に、他の医師を巻き込む訳にもいかなかったから、工藤の申し出に唯人は頷き、それを見た彼が珍しく……安堵したような表情を見せた。  工藤が責任を感じているのはよく分かる。彼のそういう言い訳をしない真面目さは、長い付き合いで良く分かっていた。 「暁は?」 「鎮痛剤と睡眠薬で眠らせています。右の手首に骨折がありますが、複雑骨折ではありません。あと、起きた時、間違えがあっては困るので、多少拘束させていただいてます」 「そうか。分かった」  冷静さを装いながらも、心拍数が上がっていくのが自分自身でも良くわかる。  これまでどんな無体な場面を目にしても……動揺したことなど無いから、唯人は自分に苛ついた。  工藤が部屋の扉を開き、案内されて中へと入る。すると、視界一杯に海が広がり、眩しさに目を細めるが……もちろんリビングルームに暁が座っている筈もない。 「こちらです」  奥へと続くドアを開いた工藤が頭を下げ、唾を飲み込んだ唯人が部屋へと脚を踏み入れたその途端、消毒液のツンとした匂いが鼻腔へと広がった。  ***  話は二日前へと戻る。 「今日の相手はコイツ? なんかあんま(そそ)らないんだけど」  結局、抵抗空しく暁の上衣は無惨な形で取り払われ、二人がかりでベッドの上へと伏せの格好で押さえ付けられた。  それでも……諦められない暁は足掻くが、突如頭上から降ってきた声に、動ける範囲で顔を上げると、息を飲むような美しい顔がそこにあったから驚いた。  目の覚めるような美形には……唯人でかなり慣れてはいるけれど、彼の造形は唯人のそれとは雰囲気がかなり違っていた。  中性的な美貌と言えばいいのだろうか?  気の強そうな二重瞼は目尻が僅かに上がっているが、口角もまた上がっているから、キツいという印象は受けない。  晒け出された上半身には綺麗な筋肉が付いていて、まるで雑誌のモデルのようだと、動きを止め、暁はぼんやりと考えた。

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