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第117話

「まあそう言うな。いつもより報酬は弾む。こう見えて、ソイツは御園の坊ちゃんイロだ。もしかしたら……男を虜にする何かがあるのかもしれないぞ」  喉を鳴らして佐伯が笑う。 「そうなのか?」 顎を取られ、至近距離から真面目に問われて、慌てた暁は首を振った。  それと同時に、なぜ自分が金になると思われたのかも理解する。 「違います。俺と唯は……そんな関係じゃない」  だから、仮にゲイビを撮られたところで金になどなりはしないだろうと、懸命に声を絞り出すけれど、一笑に付され黙殺された。 「駄目だったらその時は、ソイツの内蔵でも売るさ」 「っ! そんな……約束が違うじゃないですか!」  顎で示された樹が掠れた声を震わせ反論するが、 「その時は……だ。まさか、ガセネタじゃないんだろ?」 と冷たく返され泣きそうな顔で肩を落とす。 (泣きたいのはこっちだ) 「じゃあ、とっととやろうか」  唇の触れるギリギリまで……顔を近づけた男に問われ、暁は首を振ろうとするが、刹那衝撃が頬を襲い、あとから来た痛みと熱さに殴打されたのだと知った。 「……っ!」 「どうします? コイツ、暴れるから縛りますか?」  背中を押さえるチンピラ風の男が敬語を使っているのに、違和感を持った暁だけど……今は理由などどうでもいい。 「必要ない。どけ」  重みも深みも感じない、抑揚の無い男の言葉に、慌てたように背後の二人が暁を残してベッドを降りた。  さっき“男優”と話していたのがこの男の事ならば……二人の男の態度が余りに仰々(ぎょうぎょう)しい気がするけれど、どうあれ彼らが離れるならば、これはチャンスだと暁は思う。 「……っ! うぅっ!」 「俺相手なら逃げられると思った? 甘いな」  逃げるなら今しかないと動いた暁の背後から、愉しそうに響く声。  同時に視界が大きく揺れて、ベッドの上へと引き戻され――。 「あっ……あ゛あぅっ!」  うつ伏せにした暁の背中を膝を使って拘束し、腕を背後に捻り上げてから、男は微塵の躊躇も見せず、肩の辺へと拳を落とした。 「あ゛……い゛、いたいっ! 痛い!」  初めて経験する衝撃に、たまらず声を張り上げる。肩を激しい痛みが襲い、呼吸することもままならなくなり、動くことすら出来なくなった。 「名前は?」  尚も背中へと乗り上げたまま、耳元で彼が低く囁く。恐怖にガタガタ震えながらもか細い声で答えると、褒めるみたいに髪を撫でられ「偉いぞ」と、告げられた。

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