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第118話
「アキ、俺の言うことちゃんと聞く?」
「いっ……い゛ぃっ」
肩の関節を外されたのだが、知りようもない暁は悶え、痛みから逃れたい一心で、何度も何度も頷き返す。
「殺すなよ」
のんびりとした佐伯の口調が、恐怖心を余計に煽った。
「う゛っ……くぅっ」
ここまでの人生で……骨折はおろか捻挫ですらしたことの無い暁にとって、脱臼の痛みは未知で、僅かに身じろぐしか出来ない。
「あ゛っ……いたっ……いたいっ!」
無造作に仰向 けへと返され、痛みにもんどりを打つけれど……美貌の男は憐憫 の情を暁に掛けたりはしなかった。
「へえ、イイ顔するじゃん」
蒼白になった暁の腹部をなぞるように指が這う。
「その辺にしとけ。痛がってばかりじゃ、視聴者が萎える」
「分かってるよ。俺を誰だと思ってんの?」
佐伯の声に眉根を寄せ、苦い表情を浮かべた彼だが、暁の方へ視線を向けると唇の端を綺麗に上げた。
「戻してやるけど、逆らうなよ」
「……らわな……さからわない」
暁が必死に哀願すれば、手首を強く掴まれる。
何をされるかと身を固くすれば、「力を抜け」と命令された。
「あっ……あ゛あっ、むり、いたいっ!」
腕ごと手首を引き上げられ、激痛に、情けないくらい泣き叫ぶ。
途中で樹が視界に入り、藁にも縋るような思いで空いている手を伸ばすけど……視線が合ったその瞬間、あからさまに顔を背けられた。
「あーあ、可哀想」
「ひっ……あっ! う゛ぅ」
肩を軸にして腕を回され、一瞬息が止まるけれど……軋むような音がした後、急に痛みが和らいでいく。
「ほら、もうそんなに痛くないだろ?」
「……あ、ありが……とう」
何がどうなっているのかは全く以て分からないけれど、この痛みを和らげたのは、目の前にいる美麗な男だ。
だから、自然に礼の言葉が出たが、それが可笑しかったのか……男は一瞬目を見開くと、声を出して笑い始めた。
「アキって馬鹿なの?」
掴んだままの右手の甲へと、舌を這わせて彼は言う。どう答えれば機嫌を損ねずに済むのか分からず黙っていると、それに怒った様子も見せずに男は腕を放り出す。
「自分で脱げる? それとも……いつも坊ちゃんに脱がせて貰ってる?」
馬鹿にしたようにそう告げられて、頬がカッと熱を持った。
自分が馬鹿にされるのはいいが、唯人を揶揄するような言い方は許せない。しかし、反論するにも目の前の男は、平気で人に暴力を振るえる人間だ。
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