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第121話
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「で、何が望みだ」
回りくどいやりとりは嫌いだ。
そんな気持ちを含ませながら、冷たく告げた唯人は煙草を手に取り長い脚を組む。と、側に付いている工藤がすかさずその先端へと火を点けた。
ここは……暁を療養させているリゾートマンションの別棟で、唯人が帰国してから既に5日間が経ぎていた。
この男が突然自分を訪ねてきたということは、きっと工藤の懸念通り、尾行されていたのだろうが、そんなことは唯人にとって大した問題にはならない。
部下数人を廊下で待たせ、目の前のソファーへ座った男の名前も、調べさせたから知っている。
佐伯竜二は関西を本拠地とする暴力団の一員で、関東支部のナンバー3にあたると言われる人物だ。
「話が早くて助かる。2億……と、言いたいところだが、1億で手を打とう。坊ちゃんには大した額じゃないだろ?」
テーブルに差し出されたのは一本のUSB。話を蹴れば複製して流通させると男は言う。
「そうだな。大した額じゃない。ただ、選択肢は他にもある。例えば……そのデータを完全に消去して、前原樹を同じ目に合わせてくれたら、2億払う……とかね」
口元に笑みを浮かべながら、唯人が真っ直ぐ相手を見ると、少しの間黙った佐伯は声を出して笑い始めた。
「そりゃ、思いつかなかった。坊ちゃんもなかなかの悪党だな」
「それはどうだか分からない。けど、自分の物を好き勝手されたことについて、それなりの報復を考えるのは普通だろう?」
静かだが、凄味を増した唯人の声音に佐伯の顔が少し強ばるが、そこは相手も心得たもので、すぐに表情は元に戻る。
「やめとけ。いくら天下の御園でも、暴力団を相手取ったゴシップは、企業イメージを損ねるぞ」
「そんなのは簡単に揉み消せる」
「……だが、坊ちゃんのイロの映像は、半永久的に流通するだろうな。それでもいいのか? たかがイロ1人の為に、ヤクザとやり合うほど馬鹿じゃないだろ?」
小手先の脅し文句が唯人に通用しないと思ったのか、佐伯は少し黙った後、暁に矛先を向けてきた。
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